
広島は、今年の8月6日で68回目の原爆忌を迎える。
この原爆忌を前に1冊の本が出版された。
本のタイトルは「ぼくは満員電車で原爆を浴びた」。
語りは米澤鐡志さん、それを文章にしたのは由井りょう子さん。
米澤さんは1945年8月6日、広島の爆心750メートルの八丁堀で、電車内被爆を経験。一緒にいた母は死亡。米澤さんも全頭髪が抜け、40度以上の高熱が続き、死地を彷徨うも奇跡的に回復。
1975年頃から小学校、大学、病院、各種集会などで被爆体験講話を年7,8回平均で行っており、以降、35年以上、各地で体験講話をしている。
また、電車内被爆者として広島の被爆電車内での講演も行っている。
その米澤さんの体験が本になった。
米澤さんは、本の「あとがき」に、出版に至るまでのことを、こう書いている。
『ぼくは、すでに本文で述べたように原爆被曝を受けながら、奇跡的に生き残り、50年以上にわたって被爆体験の「語り部」を続けてきました。
この間、ぼくの話を聞いてくれた多くの人々から、この体験を本にすることをすすめられてきました。でも、簡単な講演記録をのぞいては、出版を断ってきました。(中略)
なぜなら、少年時代のぼくの記憶に間違いがないとは言いきれませんし、ぼくは歴史家でもないので、もしや正確ではないものを記録に残すことに責任がとれるのか、と考えたとき、本にして残すことにとても大きなためらいがあったからです。
また、これまでにも原爆をテーマにした絵画、詩、小説、エッセイ、まんがなどすぐれた作家のすぐれた作品がたくさん世に出ています。いまさら、ぼくが書かなくてもいいのではないかという思いもありました。
けれど、2011年3月11日の東日本大震災、それにともなう東京電力福島第一原子力発電所の事故により、ふるさとを追われた福島の人々を見て、考えが変わってきました。
(中略)このまま黙っていたのでは、いつの日か、何もなかったことにされて、歴史の中にうもれていってしまうような気が強くします。だから、ぼくは本にして残すことに決心しました。(中略)
聞き書きの由井りょう子さんには、一昨年、ぼくが東京で初めて被爆体験を語ったささやかな講演会にかかわっていただきました。そのとき、ぼくの話が終わると同時に、本にまとめることをすすめられ、より詳しい取材が始まりました。本にする気はないと言っていたぼくが、説得に負けてしまったのです。おかげでこのような立派な本ができました。あとはひとりでも多くの人々に、読んでいただきたいと願うばかりです。』
この初めての東京での講演会が、2012年7月16日の「明大土曜会」である。
当日、代々木公園で「さようなら原発10万人集会」が開かれ、4大学共闘は集会とデモに参加したが、米澤さんも4大学共闘の集会であいさつをし、一緒にデモに参加した後、講演に臨んだ。
当日の講演が、この本が出版されるきっかけとなった。
※ 米澤さんの集会でのあいさつ
『私は広島で1945年に小学校5年の時に被爆しまして、その後、60年以降、現在まで50年間、核と人類は共存できないということを旗印にして運動を続けてきたんですけど、残念なことに福島の事態を起こしてしまいました。
そういう意味では、今のような広い運動ができなかったことについて慚愧に耐えない。私は大飯の闘争には3回ほど行きまして、30日、1日とバリケードを作って座り込みをした時は、膝がガクガクして、78歳ですから大変だったんですけど、それでも死ぬまで反戦・反核のために闘っていきたいと思っています。
皆さんと先が短いと言いましたけれど、私はあと10年以上は最低がんばるつもりでいます。共に頑張りましょう。』
本の「はじめに」には、小出裕章氏(京都大学原子炉実験所助教)がこんな文章を寄せている。
『(前略)二度と原爆など使ってはいけませんし、戦争だってしてはいけません。
どんなにつらい記憶でも、知らないよりは知ったほうがいいと私は思います。
本書は読むのも苦しい内容ですが、きっと未来のための知恵を与えてくれるでしょう。』
アマゾンの「編集担当からのおすすめ情報」(引用)
『この本は、これまで米澤さんの「語り」を聞いたことのある人にとっては、「やっと本になった」という待ちに待った本、はじめて接する人にとっては「こんなすさまじい体験を小学校5年生がしたのか」と驚きとともに知るヒロシマの現実、という本でしょう。
米澤さんは、被爆一世の語り部として、最年少です。
小学校4年生以上で習う漢字にはふりがなをふりました。
すべての方にとって、原爆被爆の実際を知るために、おすすめです。』
本の出版を引き受けてくれる出版社が見つからず、苦労されたようだが、7月11日に出版された。この夏、原爆について親子で考えるときに最適の1冊。
※「ぼくは満員電車で原爆を浴びた」(小学校中学年以上~一般)
米澤鐡志(語り)+由井りょう子(文) 発行:小学館 950円+税
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