
(No304-3の続きです)
Sさん『次は「絵里」役なんです。立場的にこっちは受け入れ側で、こっちは被災者で、しかもこっちはやりたいけど、向こうは同情するならやらないで、というある種の対立の役。
今の絵里さんを抜かすのは、正直ちょっとヤバいという感じ。できるかなと思うんです。抜かせる気はそんなにしないんですけど、どっちかというと、抜かすよりもキャストが決まった時に、先生に「抜かすより新しい道、お前としての絵里を待っているぞ」みたいなことを言われたんですね。とりあえず、もう1回、一から震災の被災者の方々のこととかを全部もう1回考え直して、避難を演じることを活かせるものを作っていきたいなと思います。』(拍手)
S君『次も同じ役です。気持ちの問題で表現力を相手に見せるように頑張っていきたいと思います。』(拍手)
司会『部長も今度舞台に立つんだよね。』
部長『新キャストで陽佳(はるか)をやるんですが、1年間、この演劇をまとめる側にいて、正直不安だらけです。ここにいるメンバーより、舞台に立った数は少ないですし、経験ないんで、これからもっともっと頑張って3年生から盗めるものは全部盗んで、今の陽佳とはまた違う陽佳を作って行けたらいいなと思うので、がんばりたいと思います。』(拍手)
司会『最後にまとめなんだけど、この後輩たちを見ていて、何かエールでも送ってあげて欲しいと思うんですけど、どうでしょうか。』
Sさん『後輩はいつまでたっても可愛いです(笑)。日々成長して、卒業以来全然帰っていなくて、観ていなくて、こんなにうまくなっているとは思いませんでした。本当によくやってくれるなと思います。
エールとしては、先輩を抜かすことを目標とすることはすごくいいことなんですけれど、そうじゃなくと、先輩のいいところを吸収して、それを見習って、もっと自分を伸ばしてくれたらと思います。』
司会『この人たちは、日々、シュレーディンガーの猫という演劇によって育っていって、今自分たちがやらなければならないものを、ずーっと考えて演じています。
皆さんの心に通じるような大事なものを伝えていくということを、丁寧にやるような演劇の興行の仕方をやって欲しいと思います。
もし私たちが(興行を)やるとしても、そういう形でお手伝いできればと思っております。
これからもシュレーディンガーの猫という名前を聞くかもしれませんが、是非応援してあげてください。よろしくお願いします。』(拍手)
「絶対に忘れない」「どんなことがあっても負けない」「それでも他人は優しくしたい」、公演のラストではこんな言葉が観客の胸を打つ。
この演劇は、アフタートークにもあるように、大沼高校演劇部で後輩に引き継がれながら上演されていく。そして震災と原発事故の記憶もしっかりと引き継がれていく。
文化というものはこういうものなんだ、としみじみ思う。もう政治に期待することはない。
写真は公演終了後、観客を見送る演劇部の高校生たち。カメラを向けると笑顔でピースのポーズ。
彼ら、彼女らの笑顔は未来への希望である!
(注:「シュレーディンガーの猫」)
物理学者エルヴィン・シュレディンガーが提唱した量子力学上の思考実験。箱に入れられ、放射能の放出に生死を握られたネコを想定し、その生死を考える。劇中では「生きている状態と、死んでいる状態が50%の確率で同時存在している猫」と説明されている。
(終)
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