今ではちょっと考えられないが、1969年11月の佐藤訪米阻止闘争の直前、「週刊読売」の臨時増刊号が出版された。まるまる1冊、当時の新左翼の活動に関して特集したものである。
内容は「学生は発言する 11月決戦 70年安保の戦術と戦略」「本誌独占『獄中記』真実という重荷を背負って 秋田明大」「『守り』から『攻撃』へ 転換する警視庁機動隊」「暴徒制圧!自衛隊は出動するか」「激化する高校生全学連」などの記事が掲載されている。
「学生は発言する 11月決戦 70年安保の戦術と戦略」については、以前、このブログでも一部紹介した。
この週刊誌の中に、明解「風雲・花の全学連用語辞典」という記事があるので、今回はこの記事を紹介する。

イメージ 1


【明解「風雲・花の全学連用語辞典」 赤塚行雄(前・日大助教授)1969.11.13週間読売臨時増刊号】
<ア行>
アオカイ 社青同解放派のこと。

圧殺 不正入学に反対する高崎経済大学の闘争を描いた映画に「圧殺の森」というのがある。岩波映画労組や反代々木系全学連などの協力でつくられたもので、苦悩に満ちた闘争を「敗北の相」において描き切った傑作といわれる。
 圧殺とは押し付けて殺すこと。「学校当局はッ、僕らにッ、卑劣なッ、恫喝を加えッ、意見をッ、圧殺しッ・・・」

アンポ後遺症 60年安保後に起こった、さまざまな現象をさして、アンポ後遺症と総称する。発狂、自殺、転向、フーテン、裏切り。民青の「敗北不感症」も、中核派や革マル派の「憎しみボケ」も、やはりアンポ後遺症だという。
 「心情的にはよくわかるんだ」などと言っている三十代、四十代の教師、ジャーナリストに対し、「あの野郎、妙に感情的なチョロイやつだな。アンポ後遺症じゃねえか」などと陰口をたたく。

一点突破の全面展開 ひとつの闘争に全力をあげ、それを突破口にして、闘争を全面的に拡大すること。もともとは社青同解放派の戦術論であったという。

エンプラをポチョムキンへ ベ平連のように「脱走」を“おすすめ”したり“お願い”するのではなく、エンタープライズの乗組員自身が、戦艦ポチョムキンの水兵たちのように決起し、士官を逮捕し、砲塔をアメリカ帝国主義に向けよ、というもの。武装蜂起準備委員会関東地方情宣局(通称プロレタリア軍団)が佐世保闘争の際に出したアピール。
 いささか現実ばなれした観念論なのであるが、そこがプロレタリア軍団の魅力だという人たちが多い。発想が文学的で、ロマンチックな印象があるからであろう。

おんな革マル “逃げの革マル”ともいう。東大・安田講堂攻防戦の前に逃げ出したというので、各派は革マルを悪く言う。しかし「行動の中核・社学同、理論の革マル」などとも言われ、革マルは理論面でリードしているという見方もなくはない。
 特に強気の社学同は革命的左翼の大連合体を結成し、70年安保へ向かっての「大全学連」構想を練りはじめたが、その際も革マル派は除外された。

お授け主義 ラジカル(radical=語源ラディックスは「根」のこと。つまり根本否定)な学生たちは、教授の提案をお授け主義として拒否する。説得はお授け主義で、うっかりしていると親がわりの政策で、がんじがらめにされてしまうと考える。

<カ行>
街頭戦と陣地戦の結合 社学同が提唱した戦術。羽田、佐世保、成田、王子などの学外闘争と学園内闘争を結び付つけ、同次元で闘い、高揚させていこうとするもの。

革命の起爆剤 「前衛」とは、大衆に先立ち、それを導いて行く政治組織ではなく、既存社会に対してラジカルな拒否の態度を表明し、自らが革命の起爆剤となる「行動する少数派」である。
 東京女子大の全共闘も「お前らは、今まで何をした!」と一般学生に叫んだというが、「行動する少数派」の、そのはなばなしい行動によって心理的ショックを呼び起こし、現体制の弱さと、腐敗ぶりを暴露し、一斉蜂起を呼びかける。反代々木系がよく使う言葉。

家族帝国主義 活動家学生が打倒しようとするものに、日本帝国主義、アメリカ帝国主義があるが、その前に「どうか学生運動だけはやめておくれ」という肉親の懇願の声と涙を振り切ること。つまり家族帝国主義を拒否することが大切だという。
 「あたし、家族帝国主義には弱いのよ。パパなんか何ていうことないけど、ママに泣かれると、つらくなっちゃってね・・・」

寄生虫戦術 社会党の組織内に寄生して、独自の組織をつくった社青同解放派の戦術。

逆ゲバ ゲバは、もう言うまでもないことだが、ドイツ語のゲバルトから出たもので、実力闘争(暴力闘争)のこと。
 ゲバにもいろいろあり、単ゲバ、すなわち単純ゲバルトというのは機動隊とぶつかり合うこと。内ゲバ、内々ゲバルトは反代々木系内のぶつかり合い。
 なぜ学生戦線内部で分裂し、激しい内ゲバが行われるのかというと、自己を絶対化しないと、「前衛」である確信が持てないからで、一種の粛清の論理によるものだろう。
 ところで、逆ゲバとは、右翼=体育会系の本格的な反撃をさす。民族主義の学生連合も台頭しつつあるので、これからは、内ゲバよりも逆ゲバが盛んになるのではなかろうか。

クシザシ理論 教授会権力を打倒することにより、ブルジョア権力を打倒するというクシザシの考え方。改良的課題も、体制の打倒なしにはかちとれない、とする反代々木系のあせりを批判して、民青系の学生がよく使う。

経験学習 機動隊とぶつかり合う時に、最前線に立たせ、肉体的に“憎しみ”をたたき込む新人訓練のやり方。
 「お前をなぐったのは機動隊、すなわち国家権力なんだ。ただの“青カラス”(青ヘルメットに青の戦闘服から出たもので、機動隊員のこと)だと思ってはいけない。あれが国家権力であり、独占資本なんだ。」

ケルン・パー 中核はドイツ語でケルン。派をパーと呼んで、ケルン・パー。黒田寛一が最初に中核派攻撃に使ったものといわれ、そこから広まった蔑称。

現象面 「ぼくらが石を投げたとか、投げないとか、そういう現象面で裁こうとする。ぼくらが何を訴えているかということを考えてもらいたい」
 現象面とは、表面だけの現われという意味では、本質的ということに、また感覚的にとらえられた面という意味では、本体に対立するもので、学生たちは、よく「総体的にみよ」などと言う。

行動なき理論は死 「行動なき理論は死、理論なき行動は無 トロッキー」、こういう落書きが日大で目立った。行動だけに走り、理論を欠くことをおそれて、自戒のために書きつけたのであろう。
 アメリカのSDS(学生反戦組織で民主社会のための学生同盟)も、50年代の「行動なき理論」と、60年代の「理論なき行動」の状態を止揚し、新たな理論と行動の統一図式にもとづいて70年代を迎えようとしている。

<サ行>
ササヤキ作戦 バリケード内に出入りする女子学生をつかまえ、耳もとで、いやらしいことをささやく反スト派のいやがらせ作戦。
 「おい、何しにバリケードの中に入って行くんだい。そんなことをしていると、お嫁さんのもらい手がいなくなっちゃうよ」。

サヨナラの総括 愛情関係の解消のこと。女の子と別れるに際して、感情的な混乱を整理し、いろいろな事情を一つにまとめて締めくくり、イデオロギー的に正しい結論を導き出すことをいう。
 学生運動の過程で傷つき、自殺した横浜市大生の奥浩平君が残した言葉。「青春の墓標―ある学生活動家の愛と死」(文芸春秋)から広まった。奥君は中核派、彼の恋人は革マル派に属していた。新谷のりこ子の歌にもなったから、これから、ますます流行しだすのではなかろうか。

更に多くのベトナムを この言葉は、永久革命論をひっさげてゲリラ戦を果敢に闘い、その果てに戦士していったチェ・ゲバラの論文から出た。ゲバラが、ソ連が、ベトナムを局地の問題としてとらえ、世界的大戦になることを阻止し、アメリカとの和平交渉を図ることを激しく批判、「更に多くのベトナムを」と叫んだわけである。
 反代々木系の中でも、プロレタリア軍団は早くからゲバラに心酔し、「極左暴力主義者」としてゲバラに続こうとしているが、最近は赤軍派の武装闘争がいろいろウワサされている。

質の向上 ストライキを宣言し、バリケードによって学園を封鎖するが、その中で理論的統一を図らねばならない。バリケード構築の直後は、ノンポリ学生は簡単に中にはいれない。うっかりすると、反スト派のスパイかも知れないからである。最初に立ち上がった者同士の質の向上を図ってから、ノンポリをしだいに引き込んでいくのである。

主体形成理論 闘争の高揚の中で、革命の主体として自己変革することにより、革命的学生運動を創造せねばならないとする理論で、黒田寛一が提唱したもの。紛争校の教師たちが、何も分からないまま自己変革、自己変革と騒いでいたのは、こっけいであった。

ショッカク 職業的革命家

ショック戦法 おだやかな行動をとるとみせかけ、突然、過激な行動を展開する戦法。
「先生のご意見をうかがいた」というので出かけて行くと、途中から急に態度を変えて、四方八方から攻撃を始めて、つるし上げたりする。

前段階武装蜂起 赤軍派の提唱する戦術。赤軍の母体は、ブント内の多数派である関東派(中大、電通大、青学大など)と理論派といわれる中間派(明大、早大など)に対立した関西派(同志社大、大阪市立大、桃山学院大など)が中核だといわれる。ロシア革命の際の、トロッキー指揮の赤衛軍になぞらえて赤軍の名をつけたといわれる。
 その赤軍の前段階武装蜂起とは、革命成立前の決起で、二、三千人で国会を占拠し、自衛隊を出動させる。すると怒った大衆がストで抗議するだろうし、帝国主義軍隊・ブルジョアとプロレタリアの対立関係がはっきりして、状況が満ちてくるだろうというもの。つまり武装蜂起、内戦突入を説くわけだ。
 京大全共闘の機関紙「ストラッグル」(9月7日付け)は、「全共闘をパルチザン遊撃軍団へ」と提唱している。つまり、五人組のパルチザンをつくって、あちこちで「早すぎる部分的蜂起」を起こそうというのだが、そういう意味では赤軍派と似た印象がある。

先駆性理論 1956年6月、反戦学同によって提唱され、社学同によって受け継がれ、その運動理論となったもの。「プロレタリアートが真に目ざめ、立ち上がるまでは、学生が労農市民にさきがけて闘い、その方向を示さねばならない。」とするもので、学生運動の果たす先駆的役割を強調する理論。

戦闘的日常生活への招待 先にふれた「質の向上」の後に、電話や手紙でノンポリ学生を呼んで、バリケード内の生々とした日常を見せ、徐々に自派陣営に引き入れるやり方。

<タ行>
大衆次元への埋没 「前衛」は、はなばなしい行動で運動を盛り上げねばならないが、その過程で過激な行動を非難されることも多い。非難を受け、大衆に迎合し、予定の過激な行動を中止することを、大衆次元への埋没としておそれるわけで、中核派が使っていたところから広まった。

挑発者集団 民青系の用語。反代々木系をさす。つまり、レーニンが指摘しているように、反動は「政治問題をあくまで実務的に取り扱うことに慣れており、言葉を信用せず、物事の急所を押えるのにたくみである」。反動は、反代々木系を甘やかせ、泳がせ、挑発者集団としての急所を押さえて、トロッキストを利用しているとみる。

転換理論 1956年の全学連第11回大会で、路線転換が行われた。ここで代々木系と反代々木系が分裂することになるが、反代々木系は、先の「先駆性理論」に八中委、九大会の路線を組み入れ、労働者階級の同盟軍、階級的視点に立って闘おうとするもの。つまり、この社会の矛盾は、すべてブルジョア対プロレタリアの階級対立に起因するのだから、学園内改良の道をたどっては何も得られない。常に個々の対立事項にとどまらず、果てしなく発展し、全社会の変革の運動へと導かれねばならないとする。

トイレット・ペーパ作戦 同年9月19日、北大全共闘がクラーク像にヘルメットをかぶせ、「ボーイズ・ビー・リボルーショナリー(青年よ革命家たれ)」と落書きしたこととともに、体験や伝統の継承に対する若者たちの拒否反応は、いろいろな問題を呼んでいる。一橋大全共闘も、歴代学長の首を切り落としてしまっている。
 「便所にトイレット・ペーパーがない。早く備えつけろ」といったぐあいに、民青系の闘争は、トイレット・ペーパーから始めるという皮肉。

トロレス トロッキストのレスリングという意味で、反代々木系と機動隊のぶつかり合いを軽蔑する民青系の用語。労学共闘ならぬ警学“狂闘”だ、などともいう。
 泥沼のように現実を混乱させ、その中で多くの市民を目ざめさせ、運動を発展させようとするもの。反代々木系が使う。

<ナ行>
ねずみ男 水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』の副主人公。もともとはネズミの妖怪で、たえずチョロチョロし、好奇心が盛んで、自ら事件づくりに一役買って出たりするが、いざとなると逃げて高見の見物をする。チョロチョロしている日和見主義者をさす。

ノンセクト・ラジカル どの派にも属していないが、本質的に急進派の学生をさす。

ノンポリ ノン・ポリティカルの略で、政治や学生運動に無関心の学生をいう。

ノン・スチューデント これはノンポリと違って、ちゃんとしたアメリカ語。一般的には聴講生などと訳されるが『デイリー・カリフォルニアン』紙に出たリー・フェルゼンシュタインの定義によれば、正規の登録学生ではないが、みずから学園コニミュティーの一部と考え、学園における政治活動の中で一定の役割を演ずる者たちのこと。
 アメリカの場合、ベトナム帰りの三十歳近いノン・スチューデントは、戦争とセックスの体験者であり、キャンパス内での影響力も強い。日本の学園紛争においても、卒業生、中退者などがはいりこんで、指導する場合が多い。

<ハ行>
パラノイア的願望 武力闘争をすれば、革命が達成すると思い込んでいるのは、かっての日共の火炎ビン闘争の延長で、パラノイア、つまり偏執狂のはかない願望にすぎないとする。もともとは、中核派を批判した革マル派の用語。

バリ祭 バリケード内のお祭り。日大闘争では、おでん屋、綿あめ屋、ラーメン屋、たこ焼き屋などの屋台ができ、のど自慢大会やゴーゴー大会などが開かれ、話題を呼んだが、京大全共闘のバリ祭でも、ティーチ・インのほか、三昼夜ぶっ続けのゴーゴー大会、ヌード撮影会、荒木一郎の「反逆のギター」を聞く会などが催された。闘いの高揚のために必要なのであろうか。

半民青 民青系を支持しているわけではないが、反代々木系のラジカルな行動にはついていけず、結果的に民青系を支持する人びとをいう。

蛮族的闘争 日大全共闘の闘い方をいう。北小路敏のアナロジーに、日大がロシア革命で、東大がドイツ革命だ、というのがあるが、大学闘争の二つの天王山として、東大と日大の戦闘的結合は、1968年11月22日、「東大=日大闘争勝利・全国学生総決起集会」として開花した。
 この結合が「感情的デュエットたることをやめて、壮大な大合唱」になるためには、日大の「破壊の思想」の実践的かつ思想的徹底性を、大胆に「輸出」することで、東大闘争の貴族的装いを打ち砕き、質を変える必要があったといわれる。1969年3月になると、日大闘争は次第にハッキリしなくなるが、その蛮族的闘争は、各地の大学にすでに「輸出」済みで、とくに同年4月12日の岡山大全共闘の抵抗ぶり、機動隊との衝突ぶりはすさまじく、機動隊員52人を負傷させ、日大闘争についで、警官の第二の犠牲者まで出してしまった。

平民路線 民青(日共)の唱える「平和の民主主義のために」から出た言葉。戦後の日本は、共産党ばかりでなく、保守党まで「平和の民主主義」を唱え、「平和」も「民主主義」も、保守・革新の共通のシンボルになり、その中で諸問題がアイマイ化されてしまっていると、反代々木系は平民路線をきらう。
 そこからまた、日常性を打破して市民を目ざめさせようとし、ゲバルト信仰が生まれたとみてよかろう。

別個に進み、共に射(う)て 反代々木系全学連の統一戦線論の背骨となったトロッキーの戦術論から出た言葉。「別に立ち、共に射て」ともいわれる。イデオロギー的にはぶつかり合っても、共通の敵に対しては共同の行動をとれ、ということ。

<マ行>
マッセンスト 社学同がよく使う言葉で、マッセンとは「大量の」という意味のドイツ語。学園を陣地として、中央権力闘争を繰り広げ、労農市民がそれぞれストに突入して、内戦を起こそうとするもの。

マヌーバー方式 manoeuverは欺瞞的策謀と訳す。「学校当局のマヌーバー方式にひっかかるな」

民コロ シュッコロ、イチコロというCMから出たもので、民青への悪口。

<ヤ行>
ゆがんだ青春 安保ブントの全学連委員長・唐牛賢太郎が、安保闘争中に知謀的反共主義者といわれる右翼の田中清玄から数百万円の運動資金をもらっていたことがバクロされたのは、1963年2月26日のTBSラジオから放送された「全学連OBのその後」という録音構成。『トロッキストその理論と実態』(日本青年出版社)なども出ているが、そこから、ゆがんだ青春という言葉が流行した。

<ラ行>
理論の分裂・行動の一致 元三派全学連委員長の秋山勝行がよく使った言葉。戦略戦術上の違いから内ゲバに走りがちだが、日ごろの対立を越え、共に射てということ。

レーニンに帰れ スターリン以前の、正統マルクス・レーニン主義に立ち帰れということ。ヘルメットや旗に「反スタ」と書いてあるのは、反スターリン主義のこと。
 スターリンン主義とは、マルクスやレーニンの言葉をねじ曲げ、共産党官僚の利益を守り、その地位を維持するためのイデオロギーになってしまったニセのマルクス・レーニン主義のこと。

<ワ行>
わだつみ拒否 立命館大の全共闘は、1969年5月20日、立命館キャンパスに立っていた「わだつみ像」を倒して話題になった。全共闘によれば、この像こそ「擬制的民主主義のシンボルだ」というのである。
 この像はもともと、戦没学生の手記『きけわだつみの声』を記念して本郷新が制作したものだが、ドイツ戦没学生の手記『僕らはごめんだ』(オーネ・ウンス)のように、死者の声に耳をかして感傷的に結びつくのではなしに、「オーネ・ウンス」と拒否しようとする。

(終)