このブログでは、重信房子さんを支える会発行の「オリーブの樹」に掲載された日誌(独居より)を紹介しているが、この日誌の中では、差し入れされた本への感想(書評)も「読んだ本」というコーナーに掲載されている。
今回は「オリーブの樹」135号に掲載された本の感想(書評)を紹介する。
(掲載にあたっては重信さんの了解を得ています。)

イメージ 1

【「日本はなぜ、『戦争ができる国』になったのか」(矢部宏冶著・集英社インターナショナル刊)】
「日本はなぜ、『戦争ができる国』になったのか」(矢部宏冶著・集英社インターナショナル刊)を読みました。日本は何故米国の言いなりになるのか? 米占領下の1945年から52年、さらには52年の安保条約から60年改訂安保条約に、必ず密約があったこと。それらが米側の公文書の機密解除によって見えるようになった中で、その歴史と構造を解明していくのがこの本です。
序章から、日本の表玄関である首都圏の上空が、今もほとんど米軍管理下にあり、都心の六本木に米軍基地(ヘリポートや施設)があって、米軍関係者はパスポートなしに米軍基地から日本中を移動する特権を持っていること。こうした治外法権は今も数々の問題、特に沖縄問題の原因となっていることは知られているところです。こうした構造は、占領期からサンフランシスコ講和条約と同時に締結された安保条約と行政協定(のちの地位協定)時代から継続しており、その実態は「日米合同委員会」に顕著であることを示しています。
この「日米合同委員会」の姿こそ日本の権力の実態です。この委員会の日本側は、外務省北米局長を代表に、法務省大臣官房長を代表代理とし、農水・防衛・財務・総務省などの局長クラスの超エリート官僚が参加し、米側は、在日米軍副司令官を代表に、在日大使館公使・在日司令部部長・陸軍司令部参謀長・空軍司令部副司令官・海軍司令部参謀長・在日米海兵隊基地司令部参謀長が参加するものです。「どんな国にもない極めて異常なメカニズム」と、駐日アメリカ公使すら証言しています。米国務省が普通、カウンターパートナーとなるべきところ、駐留米軍が日米合同委を仕切っているのです。つまり、60年以上続く「米軍と日本の官僚共同体」が日本の法的権力構造のトップに君臨したままだということです。この「日米合同委員会」が検事総長まで出すというシステムまで出来上がっていることを明らかにしています。
次の章では、二つの密約「基地密約」と「指揮密約」が存在していたこと、今もそのくびきのもとにあることを、著者は追跡していきます。米軍が日本の基地を自由に使うこと、米軍が日本の軍隊を自由に指揮できる密約があったのです。米国は占領下の米軍の特権を、いかに損なわずに保持するかに腐心します。特に冷戦から朝鮮戦争勃発の時です。GHQ  米政府は再軍備要求もしてきます。マッカーサーは失脚していくのですが、この激動の中で講和条約と同時に結ぶ52年安保条約によって、米占領時代と同じ特権を得ようとします。
力関係の弱さもありますが、米要求を認めつつ日本側は、条約や協定によって国民に批判されそうな文言を書かないことばかりに注力して文章をまとめていきます。吉田首相らは「再軍備計画や緊急事態また戦争への対応について、徹底的に研究し計画を立てさせると共に、駐留軍の基地経費や法的地位について日米合同委員会で研究させ扱うこと」にしていくのです。そうして文言にあった米軍の戦略統一指揮権記述などを削除していくことになり、そのままに実際の話は国民には見えにくい「日米合同委員会」で決められる構造になっていったのが始まりだったようです。
52年の講和と共に締結した52年安保条約時に、朝鮮戦争時期の米軍指揮権を認めたまま、それは引き続いて60年安保改定でも同じように継承していきます。「裏でどんな密約を交わしてもよい。表の見せかけが改善されていればよし」とする岸首相と藤山外相の行政協定改定についての立場は、当時のマッカーサー駐日大使の極秘電報の開示で、今では明らかにされているとのことです。いわく「彼ら(岸・藤山)は、かなり多くの改定を考えていますが、その多くは形だけのもの、すなわち国会に提出された時に、行政協定のみせかけを改定するだけのものです」とワシントンに伝えています。
一事が万事、占領下の力関係の中では、「頑張った」ように見えたかもしれないが、国民の目に触れないように基地の自由も指揮権も売り渡してきたのです。特に岸になると、その「うま味」を自覚していくのです。つまり、これまでのままの方が日本独占資本にとっても政権維持にも利があるとみたのでしょう。私が見るところ「米軍の押し付け」というよりも「恭順」戦略ともいえるやり方です。
マッカーサーが天皇を利用してポツダム勅令を憲法制定まで使ったように、米国を利用し彼らの軍事権力を維持したい思惑を受容し、国民を治めるやり方に「うま味」を見出したのです。米国と運命共同体のように、たいがいのことはハイハイと受ける自民党の戦略と言えます。安倍政権の戦争法もこの中に位置しています。かって憲法を盾に専守防衛論に利を見出した自民党は、その制約を自ら取っ払い、米戦略のグローバル化に国民を動員しようとしています。
この本は、米軍が日本の軍隊を昔から(まだ警察予備隊をつくり出す前の時代から)米軍指揮権の下で生まれ育ってきたこと、条約などの作成当事者のダレスらが使った手口を、公文書を引用しつつ明らかにしています。この本の「最後の秘密・日本はなぜ戦争をとめられないのか」の中で、米軍指揮権を認めさせるために、「国連軍の米軍」と「駐在米軍」という米軍の概念を二つに分けて、論理操作した法的手口が解明されて、まさにミステリーのサスペンスのように日本史を遡って知ることができます。なかでも砂川裁判で「伊達判決」を否定するために最高裁判決で行ったことは、日本の主権放棄ともいえます。この日米支配者の思惑を明らかにしているのは全く同感です。「統治行為論」です。私もこれが憲法を骨抜きにしたと前にも書いてきました。この「統治行為論」の唐突な判決の中の文は、「二度と基地権や米軍の指揮権に口出しを許さない」宣言のごとくであり、この「統治行為論」こそ憲法違反です。
最後に著者は、憲法改正によって米軍を撤退させたフィリピンや東西統一とEUの拡大によって主権回復したドイツなどを挙げながら、日本について「自分たちは政治について自己決定権がある。だから諦める必要はない」と主張しています。勿論です。米国に依存することで利を求め、「見映え」だけを重視して米軍の要求のままにしている自民党戦略を自覚し、新しい政権を樹立していくことこそ、日本の主権回復を実現する道です。
この本は、日本の歴史を知るために、中学・高校の社会科教科書にふさわしい、わかりやすい記述です。日本の戦後歴史がわかり、目を開かされ、何をすべきかを教えてくれる本、若い人に読んでほしいです。             

【「日本はなぜ、『戦争ができる国』になったのか」】
集英社インターナショナル刊   1,200円+税
<出版社コメント>
ベストセラーになった前作、『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を、はるかに上まわる衝撃の事実!
日本の戦後史に、これ以上の謎も闇も、もう存在しない。

目次
序章 六本木ヘリポートから闇の世界へ
PART 1 ふたつの密約──「基地」の密約と「指揮」の密約
PART 2 ふたつの戦後世界──ダレスvs.マッカーサー
PART 3 最後の秘密・日本はなぜ、戦争を止められないのか
     ──継続した「占領下の戦時体制」
あとがき 独立のモデル──私たちは、なにを選択すべきなのか

<著者略歴>
矢部宏治(やべ・こうじ)
1960年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、(株)博報堂マーケティング部を経て、1987年より書籍情報社代表。著書に『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド』(書籍情報社)『戦争をしない国 明仁天皇メッセージ』(写真・須田慎太郎 小学館)ほか多数。共著書に『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)。前著『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(弊社刊)は、10万部を越えるベストセラーに。

イメージ 2


【お知らせ】
10・8山﨑博昭プロジェクトでは、10月8日(土)に第5回東京講演会を開催します。
和田春樹さんの講演の中にも出てきた「ジャテック」の活動を担われた高橋武智さんと、作家の中山千夏さんの講演会です。
多くの方の参加をお待ちしています。
●日 時  10月8日(土) 18:00開場 18:30開演
●会 場  主婦会館プラザエフ 9階「スズラン」 (JR四谷駅徒歩1分)
●参加費  1,000円
お問い合わせ・予約:E-mail: monument108@gmail.com

【お知らせ その2】
来週のブログとホームページの更新は、10月8日の10・8プロジェクトのイベント準備のためお休みします。次回は10月14日の予定です。