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青山学院大学の闘争の状況を3回にわたって紹介してきたが、今回は番外編。

この写真は「朝日新聞報道写真集1970」に掲載されたキャノンの広告である。
見開きで2ページにわたる広告のコピーには「これから10年、忘れがたい事実を伝えるのは活字かレンズか」とある(今回は写真を大きめに掲載しています)。
宣伝する製品をアップにしたものや、単にカメラを持つカメラマンを写した広告が多い中で、この広告はメッセージ性が強く、インパクトのある広告である。
キャノンといえば、昨年は派遣切りや会長の知人の脱税問題などで評判を落としているが、別にキャノンの宣伝で今回の連載を書いているわけではないので、念のため。
ヘルメット姿の学生や立看板が出てくる商業広告は、私の記憶している範囲ではこの広告だけではないだろうか。
“広告は時代を映す”といわれるが、この広告は1969年という時代を反映した広告の1つだろう。

この写真を撮った場所は青山学院大学と推測される。背景の立看の右下に青学大の文字、そして社学同のヘルメットを被った学生。(青学には社学同がいた。ロックアウト後は、明大に青学の亡命政権があった。)
立看板の文字は典型的な立看文字。
ロックアウト策動粉砕というような文字だろうか。時期的には全学バリケード・スト後の1969年6~7月頃と思われる。
外国人カメラマン同行していたスタッフが偶然かやらせかは別にして、意識的に撮った写真だろう。

外国人カメラマンがバリケードを非難(と思われる)し、社学同のヘルメットを目深に被った学生が英語を理解しているかいないかは別にして、腕組みしてカメラマンを見据える。
この写真を見て、社学同ならカメラマンに向かって悠然としてこう話してもらいたいと思った。
ヘルメットに書かれた「世界同時革命」について英語で喋る。

Turn International Class Struggles
In The World under Transition
Into A Struggle to Destroy
Imperialism of Each Nation And
For World Proletarian Dictatorship
(過渡期世界における世界的な階級闘争を、各国の帝国主義打倒と世界プロ独へ向けた闘いに転化せよ)
1969年に開催された「反帝国際会議」のポスターにあったスローガンである。

この広告は、見ているといろんなことが想像されて非常に面白い(興味深い)広告である。

さて、1994年に全共闘白書(新潮社発行 全共闘白書編集委員会編)が刊行され、全国の大学や高校で闘争に参加した学生のアンケートが掲載されているが、当時、青学大の全共闘に参加した文芸評論家の高野庸一氏が「運動参加の理由」という項目に、こんなことを答えている。
『今でも不思議だと思っているのですが、カール・マルクスの読書体験や新左翼系の知識などまるでなく、そして誰かに教わったのでもないのに、ある日突然にアジ演説をしていたというのが現実だったのです。
デモに行く前にインターナショナルの歌詞を渡されたことを記憶しています。ほとんどの参加者たちはその歌を知らなかったのです。』

青学大闘争に限らず、他の大学でも、闘争に関わった者の多くは同じような体験をしているのではないだろうか。
大学入学当初は、私も同じように「カール・マルクスの読書体験」や「新左翼系の知識」などまるでない状態でヘルメットを被ってデモをしていた。
インターナショナルの歌詞も、何回目かのデモでやっと覚えたような状態だった。
デモで歌を歌うことなど知らなかったので、最初は戸惑い、肩を組みながら、皆が歌うインターナショナルの歌詞を黙って聴いていた。

今後も全国学園闘争の紹介をしていく予定であるが、当時の資料を見ていると、全共闘といっても各大学によって状況が異なり、一様ではないことがよくわかる。
 全国学園闘争は東大・日大闘争だけでなく、様々な闘いがあったことを伝える必要があると感じている。

(終)