
前回に引き続き、「平凡パンチ」に掲載された、小中陽太郎氏による日大全共闘議長 秋田明大氏への獄中インタビューを紹介する。
(写真は「平凡パンチ」から転載)
【女ってこんなにキレイだったのか 独房の中で8ヶ月激動の時代を見つめる人間秋田】
平凡パンチ 1969.11.24(引用)
『<釈放されたらまずスキヤキに日本酒>
コナカ もし、いま釈放されたら、出迎えの人にまずなにを言うだろう?
アキタ 「オオ、みんな、元気か」たぶんこう言うだろうな。
コナカ それから何を食べる?
アキタ 前はビフテキにビールだったけど、最近変わってスキヤキに日本酒。だいぶ寒くなってきたからね。
(中略)
コナカ ところで、キミの郷里の広島カープは、ことし最下位だったけど、どうすれば強くなると思う?
アキタ ソレソレ。オレ、毎年ガッカリさせられるんだ。出だしがよくって終わりダメ。積極的なエネルギーがないんじゃないか。日大闘争の粘り強さを少しわけてやりたいよ。
(中略)
<ピーターはいいセンいってるヨ>
コナカ もっかシャバでは、ピーターって女装の美少年がウケてるけど・・・。
アキタ 既成の概念を破ろうとしてるんじゃないか。反体制のテーゼといっちゃオーバーだけど。
コナカ モノ・セックスってことば、知ってる?
アキタ 孤独な男にゃ、わからないんじゃないか。
コナカ ソウカナ?孤独な男ならわかる、と思ったんだけどな。いま読んでるものは?
アキタ 「エコノミスト臨時増刊」、「朝日ジャーナル」「少年マガジン」
コナカ つげ義春と白土三平の差はなんぞや?
アキタ つげ義春はよくわからないけれど、どろどろした情念の世界を描写しているのではないの?白土のほうは感情の世界ではなくて、現実の社会、つまり歴史を闘争的に描写し、だれが時代の主人公であるかを訴えようとしているんじゃないかな。だけど最近「ガロ」読んでないけど、「ガロ」の一番最初の「ワタリ」だっけ、あれ読んだ限りでは、思想的限界を表しているようだなあ。
コナカ 「平凡パンチ」は金出して買ったことあるかい。
アキタ ある、ある。高校、大学1年ごろまでよく買ったよ。そういえば、マンガ差入れてくれるのに「パンチ」はあまり差し入れされないな。前に一度ね、パンチ差し入れされたけど、ヌードのところ、黒々と塗られていたよ。ガッカリだよね。
昨年の夏、バリケードの中で秋田クンにあったときは、彼はコッペパンかじりながら「ことしの夏はザック1つさげて北海道に旅行したいけど、それどころじゃなくなって」と、白い歯を見せて笑ったものだが、あれから8ヶ月も権力は彼を暗い独房に閉じ込めている。
数度の保釈請求にも、一度は保釈金百万円、しかも広島に帰れ、という闘争を放棄させる条件をつけ、現在は証拠隠滅の恐れありというナンセンスな理由で、1人の若者を拘置しつづけている。
それでも秋田クンは、いまなお強いことばで語るのだ。
「日大闘争ほど展望のある闘いはない。日大闘争は人間として日大生として、生きていくために避けることのできないものだ。だから、決意などない。ただ、人間として生きて行くだけだ、それが闘争だ。」
そして、闘い半ばにして去っていった仲間にも
「闘ったことを忘れないでほしい。そしてそのことを肯定できる生き方をしてくれ」と望むのだ。
そしてなお、獄中で彼が思うのは外のたたかい。
彼は、全国全共闘に対しても、こう言っている。
「技術的政治的に堕さないでくれ。八派だけでなく、いろいろな学生組織も参加してほしい。
そして11/17の佐藤訪米阻止には、東京中がゴチャゴチャになること、ありとあらゆるところに、戦闘的な人間のウズがわき上がることを期待している」と。
コナカ 山本義隆評聞かせて。
アキタ 物事を理論的に考える人、自己にきびしい人、だけど、この人、あまり清潔じゃないね。2月ごろだったかな汗で汚れて黄色くなった下着着てたよ。
コナカ このあいだつかまった日大全共闘書記長の田村正敏クンは?
アキタ あの男、カタブツに見えるけど、なにしろ毛沢東万歳だからね。案外おもしろいよ。オイラ、あの彼の笑い声にひかれるな。キーキーキーって笑う。まだたくさんあるけど、本人にしかられるからやめるよ。(中略)
1日1回の貴重な5分がすぎると、かたわらの看守がリミットを告げる。私と秋田クンのあいだに通っていた、暖かいものが、一瞬、とだえ、冷えびえとした接見室の現実にかえる。
ぐっと歯を食いしばった秋田クンは、看守にうながされて、牢獄の、厚い壁の世界にかえってゆく。
拘置所を出ると、東京の空はぬけるように青かった。』
(終)