このブログでは、重信房子さんを支える会発行の「オリーブの樹」に掲載された日誌(独居より)や、差し入れされた本への感想(書評)を掲載している。
今回は、差入れされた本の中から「武建一が語る・大資本はなぜ私たちを恐れるのか」の感想(書評)を掲載する。
(掲載にあたっては重信さんの了解を得ています。)

【『武建一が語る・大資本はなぜ私たちを恐れるのか』(旬報社刊)】
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『武建一が語る・大資本はなぜ私たちを恐れるのか』(旬報社刊)を読みました。
あまりにも理不尽。私のいた・60年代では考えられない権力のやり方に驚かされると同時に、その理由を教えてくれるのが、この本です。本の帯に「641日間にも及ぶ長期勾留!89人にも及ぶ逮捕者!なぜいま戦後最大規模の刑事弾圧が労働組合に加えられるのか!?」とあるように「関西生コン支部」に対する、戦前、またはGHQ占領時代のような弾圧の復活に憤りと共にこの本を読みました。
著者の武建一さんは1943年鹿児島・徳之島生まれで、19才で大阪に出て、生コン運転手として劣悪な労働環境のもとでも模範的労働者として働きます。しかし会社のあまりの理不尽(組合で労働者のために一心に活動し労働環境の改善を求めていた先輩が解雇ざれたこと)にたちあがり、1965年生コン支部を結成して23才で初代委員長に就任します。以来あたりまえの組合運動すら会社側の雇うヤクザに妨害され、あやうく殺される破目にあう拉致も受けます。(その時のことは「徳之島出身の者は殺させない」というヤクザの中に徳之島出身の人間がいて生命がつながったのを後になって知ったと記しています。)
 この本では、関西生コン支部にかけられた弾圧が、いかに不当で憲法違反であるかわかりやすく、読者の目線に答えるように記されています。日経連の会長であり、セメント協会会長であった大槻文平が、96年日経連の機関紙で、「関西生コンの運動は資本主義の根幹にかかわる運動をしている」と述べたようですが、そこに支配階級が恐怖し関生支部を憤そうと繰り返す刑事弾圧の本音、本質が示されています。
 著者は「恐喝」・「強要」・「威力業務妨害」などの刑事弾圧に対し次のように述べています。これは労働組合運動に対する弾圧だ。容疑を問われたことのすべては、憲法28条で保障されている労働組合の団結権・団体交渉権・団体行 動権を行使したに過ぎない。いづれも労働組合の活動として正当なことばかりで、逮捕は完全なでっちあげだ。マスメディアは、凶悪犯のように報道しているが、決してそんなことはない」と訴えています。普通の組合活動で89人も各地で逮捕されているのは、憲法で保障されでいる組合活動を原則的に行う団体が減り、関生支部を狙い撃ちしてこうした形の組合運動をなくそうとする新自由主義の政策としてあることを忘れることは出来ません。
 日本では戦後の「産業別労働組合」が「企業内組合」にとってかえられ、大企業は「企業内組合」を育て、経営側の許容の範囲内に運動の矮小化を図ってきました。関生支部は個別の労働組合から出発しその発展として建設、生コン業界全体の働く人々の利益を守るために、「企業内組合」ではなく「産業別労組」という枠組みで、会社を越え社会と結びついて闘ってきたことは良く知られています。そして更に建設大手とセメン卜大手の狭間で、両方からいいように収奪される生コン業界のバラバラな中小企業経営者らを組階し、彼らとも組んで、大手企業にむけた闘いの戦略構図として「大阪広域の協同組合」を更に創出していきました。それを一つにまとめていったのも著者たち関生支部です。もちろん中小企業の悪徳な経営者も居ましたが、それらをねばり強く一つに結びつけていったのです。この構図「生コン支部方式」が他の産業にも全国化すれば、独占企業は勝手な振る舞い、下請け中小企業への無理な価格や納期の押し付けなどが危うくなることを知っています。
 そうした資本と権力がー体に「産業別組合」として地域社会とも結びつく労働組合運動のモデルである関生支部と、その方針を共有する各地の組合幹部たちへの「犯罪者イヒ」を決断し、潰しにかかってきたのが2000年代以降です。
 著者たちが、阪神淡路大震災の建物の倒壊を直視し、建物の水増しコンクリートの施工不良に対して、コンクリート建設を正そうとしたり、適正価格を求める「コンプライアンス活動」が「恐喝」や「犯罪」とされてきたのです。こうした悪徳企業は、著者らが奔走してつくりあげた中小企業の「大阪広域協同組合」未加入のぬけがけ企業ですが、大資本からのコンプライアンス活動への圧力が当然かかります。大資本からの圧力に労働組合と協同組合で、共にはね返した時代から、大資本のいいなりに従う「広域協同組合」内の勢力も登場し、協同組合指導部も変質していきます。労働組合と大資本の闘いの反映として、中小企業の個別利害を主張する勢力が大資本と組んで関生支部潰しにかかり、権力と共同した動きを活発化していく。この本に書かれている歴史を読むとその利潤追求のあくどさがよくわかります。それまでは、関生支部に助けられた「広域協同組合」の新しい理事長は、かつて悪徳企業がヤクザを雇って組合潰しをやったように、レイシストと手を組み巨費を投じて関生潰しのプロパガンダを全面化していきます。権力と共謀した勢力のこうした動きが今回の弾圧へと至っています。
 本の終わりに安田浩一さんが「解題 私自身が自由に生きていくために」を寄せていますが、そこでレイシストであり、ナチ・ヒトラー信奉の人物がグループを動員して関生支部グループに対しヘイト行動を起こしていることを記しています。
 この人物は広域協同組合理事長ら指導部に金で雇われてヘイト活動を行っています。それを「業務委託契約料」だと開き直り正当化し、関生支部グループに対するデマをSNS、街頭でヘイト行動を繰り返している実態も詳しく安田さんが記しています。この「合法性」と開き直るレイシスト集団は中国・朝鮮にたいするヘイト行動とひとつにつながっています。
 関生支部は闘いの壮烈さにおいて、又、労働組合、協同組合協議会、地域社会の再生の展望において優れた革命性を内包しているが故に、現在の公安警察国家の強制統制の最前線を強いられているのがよくわかります。今、この著者らの労働運動を日本で業種・地域を越えて守り抜かないと、未来の日本の労働運動は独占・大資本経営陣の言いなりのものしか残れなくなる……と、強い危機感をもって読みました。これは著者らの問題のみならず、自分たち自身の表現・言論の自由、基本的人権を守る闘いとつながっています。
 「第一章刑事弾圧」で現状を学び、第二章で生立ちから「タコ部屋」の過酷労働を知り、第三章では70年代の万博・オイルショックやヤクザ大資本との闘い、第四章大同団結の時代が記されていて輝く歴史も厳しい現在も、わかり易く記されています。私も「関生に連帯する」と云いつつ、詳しく知りえなかったことがまとめられていて基本骨格がよくわかりました。多くの人が読めば今の日本の進んでいく先が見え、こうしてはいられないと思うでしょう。 
 2021.4.21記  

【旬報社サイトより転載】
641日間にも及ぶ長期勾留! 89人にも及ぶ逮捕者!
なぜ、いま戦後最大規模の刑事弾圧が労働組合に加えられているのか!? 
マスコミが報道できない、労働者を犯罪者にしたてあげる権力の横暴を明らかする!

〈著者より〉
2018年8月28日の朝6時過ぎ、いつものように大阪市内の組合事務所に出勤した私は、いきなり警察に逮捕されました。ゼネコンを恐喝した容疑だというのです。
私だけではありません。私が委員長を務める労働組合、関生支部の組合員や関係者も、恐喝、強要、威力業務妨害といった容疑でつぎからつぎへと逮捕され、その数は1年あまりのうちに延べ89人にものぼりました。そして、私は、2020年5月に保釈されるまで、じつに641日も勾留されることになったのです。
ストライキ、ビラ配り、建設現場の法令違反の調査、労働争議……。私たちがやってきたのは、日本国憲法第28条で保障されている、ごくあたりまえの労働組合活動ばかりです。
それなのに、なぜ私たちは逮捕されることになったのか。
しかし、こうした事実を正確に報道するメディアも少なく、自ら調べもせずに警察情報を垂れ流すフェイクニュースが溢れています。
この本を通じて、私たち関生支部の活動のほんとうの姿、そして、「関西生コン事件」とよばれる現在の事態の真相を、ひとりでも多くの方々に知っていただければ幸いです。
(目次)
第1章 刑事弾圧
641日にも及んだ勾留生活
なぜ私は逮捕されたのか
協同組合の変質
労組破壊に加担したレイシスト
第2章 「タコ部屋」の過酷労働
私の生い立ち
「練り屋」と呼ばれて
労働運動に目覚める
関生支部の誕生
初めての解雇
第3章 闘いの軌跡
万博不況とオイルショック
ヤクザと生コン
大資本が恐れる産業別労働運動
第4章 大同団結
安値乱売で「がけっぷち」
大阪広域協組の誕生
シャブコン
2005年の弾圧事件
ゼネスト決行
目指すべき場所
〈解題〉私自身が自由に生きていくために  安田浩一

旬報社2020/11/30 刊
定価1,650円(税込)

【お知らせ その1】
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『「全共闘」未完の総括ー450人のアンケートを読む』
全共闘運動から半世紀の節目の昨年末、往時の運動体験者450人超のアンケートを掲載した『続全共闘白書』を刊行したところ、数多くのメディアで紹介されて増刷にもなり、所期の目的である「全共闘世代の社会的遺言」を残すことができました。
しかし、それだけは全共闘運動経験者による一方的な発言・発信でしかありません。次世代との対話・交歓があってこそ、本書の社会的役割が果たせるものと考えております。
そこで、本書に対して、世代を超えた様々な分野の方からご意見やコメントをいただいて『「全共闘」未完の総括ー450人のアンケートを読む』を刊行することになりました。
「続・全共闘白書」とともに、是非お読みください。

執筆者
<上・同世代>山本義隆、秋田明大、菅直人、落合恵子、平野悠、木村三浩、重信房子、小西隆裕、三好春樹、住沢博紀、筆坂秀世
<下世代>大谷行雄、白井聡、有田芳生、香山リカ、田原牧、佐藤優、雨宮処凛、外山恒一、小林哲夫、平松けんじ、田中駿介
<研究者>小杉亮子、松井隆志、チェルシー、劉燕子、那波泰輔、近藤伸郎 
<書評>高成田亨、三上治
<集計データ>前田和男

定価1,980円(税込み)
世界書院刊

(問い合わせ先)
『続・全共闘白書』編纂実行委員会【担当・干場(ホシバ)】
〒113-0033 東京都文京区本郷3-24-17 ネクストビル402号
ティエフネットワーク気付
TEL03-5689-8182 FAX03-5689-8192
メールアドレス zenkyoutou@gmail.com  

【1968-69全国学園闘争アーカイブス】
「続・全共闘白書」のサイトに、表題のページを開設しました。
このページでは、当時の全国学園闘争に関するブログ記事を掲載しています。
大学だけでなく高校闘争の記事もありますのでご覧ください。


【学園闘争 記録されるべき記憶/知られざる記録】
続・全共闘白書」のサイトに、表題のページを開設しました。
このペ-ジでは、「続・全共闘白書」のアンケートに協力いただいた方などから寄せられた投稿や資料を掲載しています。
知られざる闘争の記録です。


【お知らせ その2】
「語り継ぐ1969」
糟谷孝幸追悼50年ーその生と死
1968糟谷孝幸50周年プロジェクト編
2,000円+税
2020年11月13日刊行 社会評論社
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本書は序章から第8章までにわかれ、それぞれ特徴ある章立てとなっています。
 「はしがき」には、「1969年11月13日、佐藤首相の訪米を阻止しようとする激しいたたかいの渦中で、一人の若者が機動隊の暴行によって命を奪われた。
糟谷孝幸、21歳、岡山大学の学生であった。
ごく普通の学生であった彼は全共闘運動に加わった後、11月13日の大阪での実力闘争への参加を前にして『犠牲になれというのか。犠牲ではないのだ。それが僕が人間として生きることが可能な唯一の道なのだ』(日記)と自問自答し、逮捕を覚悟して決断し、行動に身を投じた。
 糟谷君のたたかいと生き方を忘却することなく人びとの記憶にとどめると同時に、この時代になぜ大勢の人びとが抵抗の行動に立ち上がったのかを次の世代に語り継ぎたい。
社会の不条理と権力の横暴に対する抵抗は決してなくならず、必ず蘇る一本書は、こうした願いを共有して70余名もの人間が自らの経験を踏まえ深い思いを込めて、コロナ禍と向きあう日々のなかで、執筆した共同の作品である。」と記してあります。
 ごく普通の学生であった糟谷君が時代の大きな波に背中を押されながら、1969年秋の闘いへの参加を前にして自問自答を繰り返し、逮捕を覚悟して決断し、行動に身を投じたその姿は、あの時代の若者の生き方の象徴だったとも言えます。
 本書が、私たちが何者であり、何をなそうとしてきたか、次世代へ語り継ぐ一助になっていれば、幸いです。
       
【お申し込み・お問い合わせ先】
1969糟谷孝幸50周年プロジェクト事務局
〒700-0971 岡山市北区野田5-8-11 ほっと企画気付
電話086-242-5220(090-9410-6488 山田雅美)FAX 086-244-7724
E-mail:m-yamada@po1.oninet.ne.jp

【お知らせ その3】
ブログは概ね隔週で更新しています。
次回は3週間後の12月24(金)に更新予定です。