今年の2月4日、明大土曜会の定例会が開催された。明大土曜会は偶数月の第1土曜日に開催しており、毎回いろいろなテーマについて関係者から話を聴いたり、議論したりしている。参加者は明大のOBが中心とはなっているが、オープン参加で、他の大学OBや若い世代まで幅広い方々が参加している。当日は30名近くの参加があり、大学生など若い世代の方が10名ほど参加した。
今回のブログでは、当日、労働組合の役割と戦争に反対することの大切さを語っていただいた、全国一般労組の方のお話を掲載する。

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Sさん
全国一般・全労働者組合のSと申します。
「労働組合について」ということですが、労働組合が賃上げのみでやってきたことが、社会の中でどういう役割を果たしてきたか。賃上げのみ、企業は企業内の事のみで考えてきた結果、社会は本当に荒廃しているのではないかと思うわけです。
多重債務に苦しんでいる人が「闇バイト」で働き口を求めた結果、脅かされながら人殺しまでやってしまう。片や地下アイドルに女子高生が何百万もつぎ込む。そういう犠牲者がいっぱい出るわけです。今の世の中、金次第で命まで失われていったり、女性であれば性を売り買いするところまで突き進んでしまうような世の中で、自分たち労働組合は社会の規範を作らなければいけないんじゃないか。
職場の賃上げとか処遇改善を求める一方で、私たちは合同労組と言って1人でも入れる労働組合なんですね。そこに駆け込んでくる人たちは、解雇されたり、パワハラで精神的に病んでしまう人が多かったり、コロナの被害相談村というのを年末年始にやりましたけれど、非正規の人たちを中心に、そういった被害を受けていることについて相談を受けながら、地道にその相談を拾って解決に導いていくようなことをやっています。労働組合は企業内で組合費を払っているだけの人が多いわけで、社会の規範が壊れる中で必死に生きている人たちがいっぱいいて、そういう中で自分たちが何が出来るのかというのが一つあると思うんですね。お金より命だろうと。命をどういう風に次に繋げて行くのかということは、労働組合の大切な役割だと思います。
ちょっと前、国労だとかが健在だった頃は労働組合の規範が社会に浸透していて、働き方でも「そんな働き方はだめだよ」とか、犯罪にしても、そこまでの犯罪は起きていたのかということを調べてみる必要がありますが、違っていたと思うんです。少なくとも、暴走するような競争社会の中で、ちょっと間違えれば滑り台のように下降してどん底に突き落とされるようなことが、身近にどんどん起こっているわけです。
片や、ウクライナとロシアの間で戦争が起こって、戦争の中で犠牲になるのも市民であったり労働者であったり、ウクライナ国内でも労働組合はあるんですけれども、鉱山の労働者は、「自分たちは志願して兵隊になってロシアと戦うんだ」ということで、労働組合の権利どころではなくなっているらしいんですね。労働組合というのは、元々戦争になってしまうと、その権利を放棄して戦争のために協力する体制を作って来たのが戦前の日本だし、今でも実際に起こっていることを見ると、ロシアでは徴兵制が敷かれて、地方だけでなく都心の人まで駆り出されて兵隊になる。ウクライナでは60歳までの人たち(男性)は有無を言わさず徴兵制で兵隊になるという、そういう中で、日本で私たちが直面していることは、実はウクライナとロシアや、世界で行われていることと無関係ではないんではないか、というのはもう一つあると思います。
何が言えるのかというと、ロシアとウクライナの間でずっと続いていたのは、東西冷戦後のNATOの東方拡大でロシアを包囲していく中で、ウクライナもNATOに加盟するというのがきっかけで起きてしまった戦争ではないかと思っています。ソ連が崩壊するときは、多重債務が重なって社会が身動き出来なかったらしいです。IMFなどが債務を帳消しにする代わりに国営企業を売り払えとか、企業家を作れとか、そこで活躍したのが官僚と言われる人たちだったらしいんですけれども、そこを牛耳っていったのが、今のNATOを中心とする資本主義社会だったと思うんです。(ウクライナ侵攻に)手を付けたプーチンは許されないですけれども、その背景にあった事を考えること抜きに、この戦争について語れないだろうと思います。
今回、労働組合がこの戦争に反対するということで、「労組反戦行動実行委員会」というものを1年前に立ち上げて、10月21日の国際反戦デーに180名で国会前で集会を開きました。28の団体、政党、個人、労働組合も集まって、そこで「命を大事にしよう。戦争に反対しよう」という1点で(一致して)やりました。やって良かったと思ったのは、コロナ禍で人と真剣に何かを話すことが出来なくなっている中で、職場や地域、政党を超えて自分たちの思いを伝える、「戦争反対」とうことで立ち上がったのは意義があったと思っています。
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(国会前集会 2022.10.21国際反戦デー 全国一般FBより転載)
労働組合と「戦争反対」がどう結び付くのかというのは、自分も自問自答しているところですが、労働組合が戦争に反対するというのは、日本で言えば戦前の労働組合が解体されて戦争に協力していった歴史があったわけで、協力していった歴史の中で、「戦争反対」を言っていた人たちは特高警察によって、治安維持法で命まで奪われていった、そういうことになる世の中だったんですね。
何年か前のNHKの番組で、治安維持法というのは元々は共産党を取り締まるためのものだったらしいですが、だんだん拡大解釈が進んでいくうちに、教員の研修会、仕事を紹介する斡旋団体、絵描きの人まで捕まえられる。その番組の中で絵描きの人の証言があって、警察からマルクス主義の本を渡されて、「これに基づいて絵を描いたと供述しろ」と言われた、ということまで行われたそうです。太平洋戦争に入って国民を改造して最終的に玉砕していく、広島・長崎や沖縄の悲劇が生み出された背景には、そういうことがあるのではないかと思っています。
何故そういうことが許されたのかということを考えた時に、一つには、身近な事に無関心でいてはいけないということなのかなと思います。無関心でいるということは、他人が何か溺れている時に手を差し伸べなかったりすることから始まると思います。
2005年のJR西日本の福知山線の脱線事故は、運転手の責任にされてしまったんですが、JR西日本の社長が傷害致死に問われたけれど無罪。もっと効率よくダイヤを過密化させて電車のスピードを上げなければ間に合わないような仕組みにしていった会社の体質や、実際にスピードを落とさなければいけないところで、スピードを落とす装置(ATS)を取り付けていない。カーブのところで間に合わないということでスピードを落とさず走ったため、マンションに突っ込んで107人の乗客が亡くなった。更に、JR西日本の社員のほとんどが、会社に急ぐために、同僚が起こした事故なのに事故現場を素通りして行ったということです。会社は何のためにあるのかと言うと、乗客を安全に運んで、自分たちがサービスを行って、給料を得る場所ですよね。だけど、乗客を安全に運べなかった時に、何故JR西日本の社員が駆けつけて救助できなかったのかというと、会社が自分たちのものではなかったからですよ。要するにロボットとして働けという状態に、会社が労働者を追い詰めていると私は思うんですけれども、当時、運転手が書いた日記が出てきて、日勤教育と言って、ちょっとミスすれば1日中くだらない事をやらされるような教育があったりして、そういう教育を受けたくないから、ちょっとミスをしても隠すような体質、それが積もり積もって大事故につながった。運転手が責任を負わされるということを何故許してしまったのか、ということだと思います。107名の命が亡くなっていながら、会社の社長が無罪になってしまう世の中というのは何なのか、労働組合はそこから考えなければいけないんじゃないかと思います。
この職場はいったい誰のものなのか。人を巻き込んだ事故を自分たちの職場から食い止められないのかと考えた時に、労働組合というのは、そこを安全にやるためにやってきた歴史があると思うんです。そこをしっかりと主張していくような取り組みがあります。江戸川区の瓶の製造会社で、積んでいた瓶の重みで倉庫が倒れた。死者は出なかったんですが、負傷者が出る悲惨な事故がありました。そこには労働組合がありました。私たちと一緒にやっている東部労組の人たちですが、最終的には解決した。解決した中身というのは、私が画期的だと思ったのは、労働組合が経営者と一緒になって構内をパトロールしてチェックするという項目が入ったんですね。労働組合というのは、そういう事をチェックできる関係、経営者に対して言える関係が労働組合である。労働組合の役割で一番大事なのは職場の仲間の命を守り、社会の命を巻き添えにしないことだと考えると、そこから一歩が始まるんじゃないかと思っています。職場は自分たちが主人公だということを含めると、社会も自分たちが主人公なんですね。主人公であるためには、自分たちの命や生活をどう守るのかということを、真剣に考え合うことが必要だと思っています。
「労組反戦行動実行委員会」というのは、10月21日の国際反戦デー、ベトナム戦争に反対するために「総評」という労働組合が、1966年の10月21日に「軍事同盟を破棄しろ。戦争を止めろ」ということで、520万人が職場から出て「戦争反対」を叫ぶわけです。そして公務員12万人近くが処分を受ける。520万人が、自分たちの生活だけではなくて、「戦争を止めろ」ということでやったのはすごい話で、フランスの哲学者のサルトルが、「世界中の労働者で、労働組合でここまでやったのは日本が初めてだ」と言ったそうです。それくらい本来無関心でないということは、そういうことなんじゃないかと思います。公務員労働者も「自分は中立ではない。命を守るために立ち上がるんだ」ということでストライキで立ち上がって、結果としてアメリカはベトナムから撤退しますよね。「戦争反対というのは意味が無い」と言われる方が多いんですけれども、実はそういった闘いがあるということを知らないだけで、知っていればもっと自信や勇気をもらえるのではないかと思います。
戦争が始まると過酷なものを突き付けられると思うんですね。一つは権利と義務というか、自分は権利の中に胡坐をかいてはいけないし、人命が脅された時に抵抗するのも本来の権利だと思うんですよ、義務ではなくて。1944年、ナチス占領下のパリで、パリを解放するために軍需工場の労働者がストライキを起こして作業を放棄する。ナチスもお手上げの状態になってパリが解放されるということがあったそうです。こういったことも労働組合の歴史としては画期的な話で、そういった困難な中でも戦争反対のために何かできるということだと思います。自分たちの身の回りの事に無関心であってはいけないし、巻き返す努力は目の前から始まると同時に、社会と関りながら、自分たちの辛い事を変えられるのが労働組合の醍醐味なんじゃないかと思います。
私は新聞輸送というところで働いていますが、職場のMさんから発言があります。

Mさん
全労働者組合新聞輸送分会のMと申します。
今、労働組合で反戦のことをやっていまして、今度3月3日に首相官邸前で大規模な集会を行いたいと思いますので、是非ご参加ください。
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(首相官邸前集会  全国一般FBより転載)
自分の労働組合の反戦に対する考えですが、我々は銀行が発行した通貨というものを使って生活していると思うんですが、その金は価格はあるにしろ価値は無いと思っています。その価値は何に対して見いだされるのかというと、労働者が働くことによって価値というものが存在すると思っています。
たとえ小さいものでも食物を作る、服を作る、労働者が手にすることによって価値が生まれていって、我々が人のために何かをする、人のためになると考えていまして、例えば老後のために3千万円くらい貯めないと生活できないと言われていますが、3千万が1億であったとしても、その時に労働する人がいなければ、そのお金に対して価値は無い。日曜日に国民がみんな休日で休みたいのならば、ライフラインも何から何まで動くこともないし、どうすることも出来ない。つまり誰かが働かなければ、例えお金を持っていたとしても価値は生まれないと思っています。
反戦の方で何になるのかというと、我々労働者が働くことによって権利を主張して価値を見出していくんですが、戦争に対して労働するということに、果たして価値はあるのだろうか、と特に自分は思っています。さきほども言いましたけれど、人が働いて価値になるのに、その人を殺すことによって何の価値を見出されるのか。我々が生きて行くために、お互い仕事をして相手に価値を与えているのに、他国を侵略して何故価値になるのか、ということをものすごく考えているんです。全てはゼロから始まって、人間が働いて価値にして、お互い人間を支え合っていくというのが、今まで人類が進化してきた過程でもあると思うので、戦争に反対して異を唱えることによって、我々がもっと心豊かに過ごせるように進めていけるのは、最前線で戦って行こうとしている労働組合なのではないかと思って、労働組合に加入して活動しています。
3月3日の集会以外にも、2月16日午後6時から「水道橋」駅東口で駅頭宣伝をする予定です。以上です。(拍手)

Y
質問はありますか?

K
大学中退後、従業員30人程度の会社で労働組合の役員を2年ほどやったことがあります。本当に経済闘争だけ、賃上げ闘争だけの運動でしかなかったですが、賃上げ闘争すら労働組合がやらなくなってしまった、それが今に繋がっているのではないかと思っています。

Sさん
自分たちで賃金を上げることさえも出来ない、まさにそういうことだと思うんです。そのノウハウを、上意下達の中で、企業の一部の組合の幹部に任せてしまっていたり、自分たちの生活の実感としてこれは必要だとか、怒りとか、みんな削がれてしまっているんじゃないかと思います。それで、最近は政府や大企業が上から「生活が大変だから賃金を上げてやるよ」というのが最近の春闘のあり方で、「じゃあこの社会は誰のものなんだよ、価値を作り出しているのは誰なんだよ」と。もう一つ付け足して言うと、今日は「老学連帯」ということで、「老人」の「老」と聞きまして非常に面白いと思ったんですが、考えてみると、こういう場というのはすごく必要だし、今職場で60歳定年制から65歳定年制を要求しているんです。というのは、もう年金が出ないですから。
働いている人たちは「誇り」を失ってはいけないと思うんです。賃上げで自分たちの「誇り」を持ったように、働いている限り、それを大事にできる関係が必要だし、年齢や障がいのレベルに合わせて働ける職場というのが労働組合ではないかと思います。こういうことをやっている内に、いろんな知恵を年代を超えて共有できるということが、新しい何かに繋がるんじゃないかと思います。

Mさん
世界中の労働組合の組織率も低下していて、日本でも17%くらいしかないらしいですが、企業ごとに労働組合があって、要求の達成率も組合の人数が多いと達成し易くて、低いと達成しにくいというのが数字上出ているらしい。
賃上げもそうですし、さきほどの瓶の製造会社の事故を受けて、会社と労働者がお互いを自分たちの職場を守るために監視して決まり事を守るということをさせるということも含めて、労働組合で集まって、組織を高めて、資本に対して戦っていく、自分たちの意見を述べていくことが必要と思います。

Y
10・21国際反戦デーの話を出てきましたが、1968年の10・21の時は、この中でも半分くらいの人が戦ったのではないかと思います。
「労組反戦行動実行委員会」という言葉が出ましたが、当時は「反戦青年委員会」というのがあって、若手の労働者が「反戦青年委員会」を作って戦っていました。それはベースにはベトナム戦争があって、それに対する闘いです。
台湾を巡る問題などで、戦争が始まってもおかしくない、危険な時代に入ってきているけど、それに対する闘いが不十分だと思いますね。
(終)

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