
前回の続きで、「サンデー毎日」の記事を紹介しようと思うが、「心情三派」といえば、この人を思い浮かべる。作家の野坂昭如氏である。
平凡パンチ1970年7月13日号に記事が載っているので紹介する。写真は同号に掲載されたヘルメット姿の野坂昭如氏である。
【黒メガネ遁走曲 野坂昭如】平凡パンチ1970.7.13号(引用)
『60年安保当時、野末陳平と“ワセダ落第・中退”コンビを組み漫才師としてデビュー。安保についてはアンポンタン程度の認識しかなかった。
2年後、コラムニスト、ルポライターとして活躍するかたわら、“プレイボーイ”の元祖として華やかにマスコミに登場するが、12月に現夫人と結婚し看板にいつわりありとして物議をかもす。
さらに雑文業に邁進。年収1千万以上を稼ぐコラムニストにのしあがる。63年10月、処女作「エロ事師たち」を発表して作家としてデビュー。文壇の既成概念をゆさぶる小説として吉行淳之介、三島由紀夫氏の絶賛をあびる。
敗戦後の焼け跡・闇市を原体験にして特異な文体で人間の不条理をあばく作品群を発表しつづけ、68年“火垂るの墓”“アメリカひじき”によって念願の第59回直木賞を受賞。
一方爆発した東大闘争に関心を深め、安田砦に篭城する全共闘学生を激励。彼らにかっての特攻隊の面影を見る。
自ら“心情三派”を名乗り、本誌“文句はいうべし”のコラムで全共闘運動支持の論陣を張る。
69年1月の安田砦攻防戦を見て装備充実した機動隊に極度の恐怖を覚える。4月“心情三派日和見裏切り宣言”を出す。
69年10月CBSソニーより「ボー・ボーイ」で歌手としてデビュー。2万枚売れる。さらに映画俳優として“火垂るの墓”を原作にした浦山桐郎作品「黒メガネの遁走曲」主演の話が持ち上がる。
ゲバルト時代を生き残る肉体づくりのためか、40歳を目前にひかえてキック・ボクシングのトレーニングを開始。
70年6月23日、新左翼の「反安保デモ」に参加。反戦青年委のデモの隊列にヘルメット姿で加わって“アンポ・フンサイ”を叫び、明治公園→日比谷公園のデモを貫徹。』
1969年12月、べ平連系の集会が東京・日比谷野外音楽堂で開催され、野坂昭如氏がステージに現われて歌を唄った。
私はたまたま、その集会に居合わせたが、集会参加者からは日和見ということで、猛烈なヤジと非難の合唱が巻き起こった。
さて、本題の「サンデー毎日」の記事を紹介しよう。「心情三派」の関係ではないが、日共系と反日共系と比較調査が興味深い。
【現代学生の政治意識 東京・京都八大学の比較調査】
サンデー毎日1969.2.20号(引用)
『<反日共系支持が多い>
日共系と反日共系と、どちらの全学連に好感を持つか、ズバリきいてみた結果では、やはり反日共系支持の方が多く、39%、日共系(11.4%)をグンと引き離している。
では、反日共系全学連のどの派がどれくらい支持されているか。なんと無回答が56%を越した。多くの学生は、どの党派がどんな主張をかかげ、どんな戦術をとっているかを知らないようだ。
回答者の割合をみると、数の多い順から「とくにどの派を支持することはない」が約23%で最高。ついでグンと少なくなって社学同の7%強。反日共系各派のなかでは、一番人気があるようだ。
あとは大同小異、要するに反日共系全学連に好感を寄せているものの、大部分は“ノンセクト”ということになる。(中略)
ところで、問題の安保条約についてはどうか。「70年に廃棄すべきだ」が最も多かったが、過半数には達しなかった。
しかし、佐藤首相の信念である「安保堅持」はわずかに3.8%の支持しかない。安保反対組は70年にどんな行動をとるのか、大衆的デモに積極的に参加するというのは30%、政府、自民党が心配している“革命的状況”をひきおこせという過激派は、わずかに8.5%。大部分はせいぜいデモか集会に参加する程度のようだ。(後略)』
単なる週刊誌のアンケート調査とあなどれない。この後の70年安保闘争の先行きを暗示するような内容である。
大学別に内容を見てみると、「日共系と反日共系と、どちらの全学連に好感を持つか」という問いでは、日共系では立命館大の22.9%がトップ、次いで東大の20%、明大は5.7%と低調。
反日共系では早大の60.2%がトップ、次いで東大の42.9%、明大は39.8%となっている。ただ、「どちらにも好感が持てない」という割合は明大がトップの43.1%。69年当初はこんなものですかね・・・。
「反日共系全学連のどの派を支持するか」という問いに対し、明大では無党派の20%に続いて社学同が15.7%、他党派は1.4%で大きく引き離されている。当時の学内の勢力をかなり正確に反映した内容になっている。
「心情三派」という反日共系支持層にも様々な人がいたと思うが、彼らは今、どんな生活をして、どんな想いを抱いているのだろうか。週刊誌で再度アンケート調査をやってもらいたいものである。