先々週のブログで、「週刊アンポNo12」に掲載された「大泉市民の集い」が行っていた「大泉反戦放送局」の活動記事を紹介したが、今回は、同じ号に掲載されていた山口県岩国基地の現地報告の記事を掲載する。
<ラブ・イン>
あどけない若いアメリカ兵士が「1週間後またベトナムにつれて行かれるのだ」という恐怖と不安の中で安らぎを求めるとすれば、結局、酒に酔いつぶれることか、女をだくことしかないだろう。それは、あまりに荒涼としていて絶望的だ。だが、それ以外にヒューマニティックなものがあるとすれば、愛を語り、平和を語り、歌をうたうことだろう。
桜のつぼみがふくらみかけた、4月4日、花見客でにぎわう山口県岩国錦帯橋のそばで、大きなピースマークののぼりが、桜の木にぶるさがっていた。花見のための、ぼんぼりちょうちんの下で、毛布をしき、ニューロックが流れブルージンに金ぶちのメガネ、それにビーズのネックレスが象徴的な若いアメリカ兵士がすわっている様子は、平和な、本当に平和な風景だろう。パイプの煙をくゆらせながら、瞑想にふける者、大きな声でうたう者、一輪のタンポポを手に平和をかたる者、それにピースマークのバッチをつけた者、ASU(アメリカ兵士組合)のバッチをつけた人もいる。およそ20人。そしてベ平連に参加する日本人。
「ハーイ!ブラザー」陽気に笑いかける。様々なピースパンフレト。ウィ・ゴット・ザ・ブラス(注:反戦米兵の国際組織セカンド・フロント・インターナショナルの機関誌)が、ピース・ニュースがキルフォーピースが熱い目で読まれる。彼らは山口県岩国基地の米軍海兵隊員。基地の中で反乱を開始した反戦兵士たち。おだやかな日ざしの中で、彼らの中の歌が好きな連中が集まり、アルティメイトファットが、ハーモニカ、ギター、タンバリンを手に大きな声をはりあげて歌をうたう。ハラの突き出た、大がらなシンガーは、日本語でなんと言うのかとたずねたので、「百貫デブ」だと笑い合った。その笑い顔は、平和そのものだろう。ブラック・ピープルは彼の感動的なブラック・パンサーのサインで手をにぎりしめる。ちょど、その光景は、ぼくらが解放された広場を作るために運動している京都は三条大橋の橋の下大学と同じ光景。彼ら反戦兵士は、その岩国の集いを、ラブ・インと呼ぶ。だが、無邪気な顔の若いアメリカ人が、明日カンボジャに送られるのだと悲しそうにツブやいた時、ぼくらは何を思い、何が出来る。現在岩国基地は、朝鮮戦争当時と変わらないぐらい増強されていると言われる。夜のバー街を歩くと2人1組のMPが三百メートルかんかくでパトロールしている。以前にまして、その警ら体制は強化されている。そして、野犬がり使う車のように、金アミの格子ががんじょうにはまった灰色の中型トラックがまちを走る。酔いつぶれたやつや、ケンカしたやつはそれにのせられる。ベトナム行きで絶望的な兵士たちは、自暴自棄に酒を飲む。のまざるをえない。それをかんしする険悪なMPの眼。その状況下で、わずか20数名の少数者(基地内には、もっと多くの反戦兵士がいる)であったとしても、たたかいのノロシが上がる。それは、つまりヤンキー・ゴーホームというスローガンのもとでなく、アンタイ・ウオ―・ジーアイ・ウィー・サポート・ユー、反戦米兵支えんの新しいイメージのもとでの、アメリカに絶望してる若いアメリカ人との、ぼくらの連帯の始まりだろう。
<反戦米兵連帯デモ>
ピース・ナウのシュプレヒコールが、4月5日夕方、金網を越えて、岩国基地の中へとどいた。星条旗がひるがえり、だだっぴろい芝生の中に点在するカマボコ兵舎からは、彼らが見つめていた。体をのり出して、カメラを向けるやつ、ピース・サインを送るやつ。遠くのビルディングの屋上には兵士が群がっている。
それに無表情に銃をかまえたまままの兵士、MP、だが日本の機動隊と私服警官はびっしりとぼくらのまわりをかためる。ゴー・ホーム・ライオット・ポリス!岩国、広島、山口、福岡、岡山、同志社のカラフルなベ平連の旗がひるがえり、2歳の女の子がママにおんぶされてデモるのを含めて50人、先頭の横断幕には「反戦米兵連帯デモ(ザ・ジョイント・ラリー、ウィズ・アンチ・ウオー・GI)」と書いてある。
そして白ヘルメットの中核派80人、赤ヘルのプロ学同90人、彼らは果敢にジグザグデモを敢行する。逮捕者5名。
たそがれどきの岩国市内を今日、基地、金網ぞい、バー街を歩く。2時間、8キロメートル。デモがバー街にさしかかると、Aサインマークのついたバーや、スナックから、少々赤らんだ顔の兵士が、最初は不思議そうに、そしてしばらくしてニッコリ笑ってぼくらのデモをみる。はずかしげにピースサインを送るやつ、あるいは英字ビラを受けとるやつ、だが、MPは、たちどまりビラを受けとろうとする彼らを威圧的に追い払う。
ウィ・シャル・オーバー・カムの歌声は流れ、“安保フンサイ!基地撤去!”のかけ声が響く。けげんそうな地元の人々の顔、顔。基地によって生活している人々と外から基地をみる人々は恐らく違う。これからも地元に土着した運動として執拗に米兵支援の活動を展開するということはかなり困難な作業だろう。ややもすると、現在の基地内での反戦米兵の運動の方が外側よりもラジカルに未来の状況を先取りしている。ASU兵士組合(アメリカン・サービスメンズ・ユニオン)の結成、反戦リーフレット、センパー・フィー(かわらぬ忠誠)の発行、ラブ・イン(広場の創出)そして司令官と反戦米兵による大衆団交、そしていうまでもなく脱走。
<崩壊する在日米軍>
外部のぼくらとそして内部の彼らと連帯しえるとすれば結局ぼくは、行動がたとえ小さくても持続していくことだろう。同じ人間として弱さを共有しながら・・・。
そしていかに戦争機械から自分自身を切り離すか、あるいは闘うか。
サングラスをとった時の顔は、やはり18歳のまだこどもっぽい顔の若いアメリカ人は、かりに名前をスミスとすれば彼はこういうだろう。
「またベトナム行きだよ。俺はあんな戦争で人殺しなんかしたくないので、脱走するよ。脱走、そう自由を求めて。」
もしも現在、日本がスウェーデンのように政治亡命が認められているとすれば、たちどころに在日米軍は崩壊するのではないか。つまり、若いアメリカの兵士はベトナムに行くことが絶望的にばかばかしく悲惨なことだとすでに知っている。だからサボタージュや脱走、あるいは軍隊の中で反抗する。たしかに手ごたえがある。ぼくらはとにかくどこまでも彼ら反戦米兵を支援していこう。そして、ぼくら自身は反戦を叫び続けよう。ベトナムはナンバーテンプレイスだ。
「脱走するよ」とぽつりとスミスはつぶやいた。
(現地報告 鈴木正穂)
(終)
【お知らせ】
本の紹介です。
「反安保法制・反原発運動で出現――シニア左翼とは何か」が出版されました。
明大土曜会や日大930会に関する記事も出てきます。また、10・8山﨑博昭プロジュエクト発起人も何人か出てきます。
「反安保法制・反原発運動で出現――シニア左翼とは何か」
出版社・:朝日新書(朝日新聞出版)
著者:小林 哲夫(教育ジャーナリスト)
定価:842円(税込)
発売日:2016年3月11日
「反安保法制、反原発……。国会前のデモなどで、若者以上に目立っているのが60、70代のシニア世代だ。若い頃、世の中に反旗を翻したものの、その後は体制に順応したはずの彼らは、なぜ再び闘っているのか。同窓会? 再びの世直し? 新集団をめぐる『人間ドラマ』を追った。」