このブログでは、重信房子さんを支える会発行の「オリーブの樹」に掲載された日誌(独居より)を紹介しているが、この日誌の中では、差し入れされた本への感想(書評)も「読んだ本」というコーナーに掲載されている。
今回は「オリーブの樹」139号に掲載された本の感想(書評)を紹介する。
(掲載にあたっては重信さんの了解を得ています。)

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【「夜の谷を行く」(桐野夏生著・文芸春秋刊)】
 送って下さった「夜の谷を行く」(桐野夏生著)を一気に読みました。K弁護士が「実録あさま山荘というようなものよりそこそこ面白いものでした。」と述べていたそうです。
著者は私たちより若いけれど、全共闘時代の空気を体感し育った世代でしょうか。「連赤事件」に対する社会的埋葬の仕方に納得していない姿勢が、この小説に込められていると思います。
連合赤軍の京浜安保共闘系の女性たちが子ども連れで山に行き、又、妊婦である金子さんらが進んで山へ行ったこと、そこには新しい社会「皆で革命兵士を育てる」という無謀ながら夢の計画があったこと。そこに焦点を当てて、「暴力革命」の論理につぶされていった側面が浮かび上がっている物語です。その道を現在から過去へ、過去から過去を辿る中から、これからの希望の断片を見つけるように描かれています。
永田さんに対する中野判決。「あの女特有の嫉妬深さから大勢の同志を殺したなんて嘘っぱちです。本来は女たちが子供を産んで未来に繋げるために闘い、という崇高な理論だってあったのです。でもすべて、森が男の暴力革命に巻き込んでしまったんだと思っています。そしてその片棒を担いだのが永田」と、京浜安保系の生き残った女性に言わせています。
 物語は、森・永田が逮捕された後、脱走した架空の人物、西田啓子が迦葉停留所で逮捕され、分離公判で5年半の刑期を終えて、人に知られぬようひっそりと40年近くをすごしてきたのに、初老に近づき異変がはじまります。永田洋子の死、旧い元同志からの連絡、3・11大震災の日にあの時代以来初めて会った40年前の旧同志であり同棲していた男のホームレスに近い状態との再会など、忘れたい過去と向き合いたい過去のせめぎあいの中で、最後は脱走した山へと40年を経て訪れるところで話は終わります。
 この啓子の「忘れたい過去」が、じわじわと伏流として波打ち、最後は怒涛のように彼女の身の内を破って希望の片を手にしっかりと握るところがすばらしい実感、臨場感で描かれています。啓子は、金子さんに「子供だけは助けて。革命兵士として育ててほしい」と言われ、何も出来ず、指導部に阿ねてきた自分を隠し、その為に実は逮捕後に生まれ、すぐ里子に出した自分の過去を忘れようとしていたことが最後に明かされます。「金子さんをああして殺してしまったのに、あたしはのうのうと子供を産んだ。それが許せなかったから、忘れたいのです」と、最初に打ち明けた最後の物語のページ。打ち明けた相手は、里子に出した息子がルポライターとして導いてきた山の中。彼の告白で初めて母と認めた時のことばです。母が殺さず生んでくれたこと、命がすくわれたこと、「僕はお礼を言いますよ」の息子のことばが新しい始まりを予感するところで物語は終わります。
「連赤」の実際の経験者たちにも、ちがう可能性に思いをはせる機会として、又、もう一度新しい眼差しで当時をふりかえる機会になったら・・・と思いつつ読みました。
かつて私は永田さんの「十六の墓標」を読んだ時、彼女の「つもり」が繰り返しえんえんと語られ続けることに驚きました。「つもり」はそうだったかもしれないと思います。でも「つもり」と起こった事実、現実の落差こそ知りたかった・・・、現実の側から捉え語ってほしかったと、苦い思いが湧きました。そうか、みんな「つもり」は美しかったんだ。だれもがみな「つもり」、それを理想と呼ぶなら、その実現の虜になっていったのだ・・・。でも、でも遠山さん、山田さんが「つもり」のために殺されたのか・・・と、耐え難い思いに囚われずにはいられませんでした。
この小説の著者は「革命家」のモラルや「つもり」より、一般生活の感性で当時を描く分、「つもり」のない「俗物性」「身もふたもない」当時の同志関係を描いています。それは一面当たっている面もあるのかもしれません。「つまりはさ、私たちの誰も、あいつらに逆らえなくて、みんなで尻馬に乗っかって、仲間を見殺しにしたってことよね」と。
著者の本は初めて読んだので、どんな来歴の人か知りませんが、「つもり」かもしれない闘いの「正義」を共有していると思えるところが少し感じられました。いい小説だと思いました。(6月2日)

【本の紹介】
「夜の谷を行く」
著者:桐野夏生(小説家。1951年、金沢市生まれ。「柔らかな頬」(文春文庫)で直木賞を受賞。「東京島」(新潮文庫)で谷崎潤一郎賞を受賞。「OUT」(講談社文庫)で日本推理作家協会賞を受賞するなど受賞歴多数)           
定価:1,500円+税
発行:文芸春秋社
発売日:2017年03月31日

『連合赤軍がひき起こした「あさま山荘」事件から四十年余。
その直前、山岳地帯で行なわれた「総括」と称する内部メンバー同士での批判により、12名がリンチで死亡した。
西田啓子は「総括」から逃げ出してきた一人だった。
親戚からはつまはじきにされ、両親は早くに亡くなり、いまはスポーツジムに通いながら、一人で細々と暮している。かろうじて妹の和子と、その娘・佳絵と交流はあるが、佳絵には過去を告げていない。
そんな中、元連合赤軍のメンバー・熊谷千代治から突然連絡がくる。時を同じくして、元連合赤軍最高幹部の永田洋子死刑囚が死亡したとニュースが流れる。
過去と決別したはずだった啓子だが、佳絵の結婚を機に逮捕されたことを告げ、関係がぎくしゃくし始める。さらには、結婚式をする予定のサイパンに、過去に起こした罪で逮捕される可能性があり、行けないことが発覚する。過去の恋人・久間伸郎や、連合赤軍について調べているライター・古市洋造から連絡があり、敬子は過去と直面せずにはいられなくなる。
いま明かされる「山岳ベース」で起こった出来事。「総括」とは何だったのか。集った女たちが夢見たものとは――。啓子は何を思い、何と戦っていたのか。
桐野夏生が挑む、「連合赤軍」の真実。』
(「文芸春秋BOOK」ウェブサイトより転載)

【お知らせ その1】
今年は1967年10月8日の第一次羽田闘争から50年目となります。10・8山﨑博昭プロジェクトでは50年目となる10月8日に、「50周年集会」を開催いたします。
メモリアルな集会ですので、多くの皆様の参加をお待ちしております。

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「10・8羽田闘争50周年―追悼山﨑博昭」
日 時:2017年10月8日(日) 16時20分~20時(予定)
                 (開場16:00)
会 場:主婦会館プラザエフ・9階「スズラン」(JR「四谷」駅徒歩1分)
参加費: 1,500円
●第一部 50周年を迎えてプロジェクト三事業の報告 16:20 ~ 17:00
●第二部 10・8羽田闘争と今             17:00 ~ 18:30
詩朗読   佐々木幹郎作「死者の鞭」        品川  徹
記念講演 「10・8と反原発の今をつなぐもの」     水戸喜世子
記念講演 「平和村からのメッセージ」  ベトナム平和村代表NHI(ニイ)
ベトナム政府からの挨拶(予定)      
●第三部 山﨑博昭に捧げる短歌絶叫コンサート    18:45 ~ 19:15
   福島泰樹(短歌絶叫)  永畑雅人(ピアノ)
●「記念パーティー」                19:20 ~ 20:00
 乾杯・私にとっての10・8を語る(発起人・参加者) 
       
※ 集会に先立ち、弁天橋での献花・黙祷及び50周年忌法要を行います。
【弁天橋での献花・黙祷】(雨天決行)
●集合 10時20分 京浜急行空港線「天空橋」駅改札 
●10時30分~11時15分 弁天橋付近で発起人挨拶と献花・黙祷
【50周年忌法要】
●12時~ 福泉寺にて50周年忌法要 
境内に山﨑博昭の墓石・墓碑(反戦の碑)があります。
<問い合わせ> 「10・8山﨑博昭プロジェクト」事務局
(FAX)03-3573-7189 (メール)monument108@gmail.com

【お知らせ その2】
今年から、ブログ「野次馬雑記」は隔週(2週間に1回)の更新となりました。
次回は9月29日(金)に更新予定です。