今回のブログは、今年の4月に開催した明大土曜会での、大学生ジャーナリスト中村眞大さんのお話である。
明大土曜会は偶数月の第1土曜日に開催しており、毎回いろいろなテーマについて関係者から話を聴いたり、議論したりしている。参加者は明大のOBが中心とはなっているが、オープン参加で、他の大学OBや若い世代まで幅広い方々が参加している。
【2020年代 若者の社会運動を同世代の立場から取材して】
明治学院大学3年生 中村眞大(まさひろ)さん
プロフィール:ドキュメンタリー映画「北園現代史」監督。校則問題・社会問題をテーマに映像発信する大学生ジャーナリスト
小林哲夫
今日は、明治学院大学の3年生の中村さんをお呼びしました。簡単にご紹介します。
都立北園高校出身で、大学に入ってから学生の社会運動、社会に向き合う学生の人たちの取材をされてきました、この2年間の取材の話をしていただきます。
中村眞大
皆さま初めまして。明治学院大学の中村眞大と申します。
都立の北園高校という、制服も無く、校則も無いという自由な校風の高校に在籍していたんですけれども、在籍中に、例えば髪の毛を染めてはいけないだとか、いろいろな制約、管理教育というものが強化され始めてきまして、それはおかしいんじゃないかということで、友人と一緒にそういった問題に抗議する、問題提起するようなドキュメンタリー映画を制作しまして公開をしたところ、小林哲夫さんなどに取材をしていただきまして、大学入学後に、学校の校則問題に取り組みつつ、同じような活動をしている同世代の若者の取材を始めるようになりました。今はライターという形を取りながら、『情況』誌に編集部として参加しています。
●何がホットなのか
まず、2020年代の若者たちが何に取り組んでいるのかということについて、お話をさせていただければと思います。
〇環境問題
2000年代生まれが一番注目しているというか、一番人数が多い問題としては環境問題があると思います。
環境活動家のスウェーデンのグレタ・トウーンベリさんという方が、僕と同い年なんですけれども、グレタさんが始めた気候危機の運動が世界中に広まりまして、日本でも「Fridays For Future Japan」(未来のための金曜日)という若者グループが全国的にいろんなところで支部を作って活動しています。例えば、金曜日に学校の授業をストライキして抗議活動をする。そのような抗議の形態を取っています。
あとは、「Fridays For Future Japan」を卒業した年上のメンバーたちが、「record 1.5」というグループを立ち上げまして、12月にエジプトで行われた気候問題の国際会議COP27で、世界中から集まった活動家たちと一緒に抗議行動をしたり、その様子を映像に残して編集をして、今度『気候危機が叫ぶ』というタイトルでドキュメンタリー映画を公開すると聞いています。
彼らはよく、「私たちは当事者であると当時に加害者でもある」と言っておりまして、若者ということで将来の影響を大きく受けてしまう。今の地球はどうなってしまうのかということで、被害者、当事者であるということと同時に、今世界中にはツバルであったりアフリカだったり、発展途上国が気候変動の影響を本当に大きく受けている、自分の住んでいる国が沈んでしまうだとか、大きな災害の被害に遭っているとか、私たちの日本は多少の被害は受けているけれども、そこまで大きな影響も受けておらず、何か出来る立場である先進国であるのに、なかなか対策を講じていない、そういうことで、「私たちは当事者であると同時に加害者でもある」と言っているのが印象的でした。
この気候変動の活動の外には、明治神宮外苑の再開発に反対する運動が盛り上がりを見せています。先日、東京新聞に坂本龍一さんも寄稿されていましたけれども、上智大学の学生さんが中心となって、森林伐採や明治神宮外苑のイチョウ並木の根が再開発によって枯れてしまう、そういうリスクを無視して行っている東京都や企業の再開発事業に抗議するような形で、先日も都庁前で緑のプラカードを掲げたサイレント・デモを行っていました。
〇性の問題
続きまして、性の問題、例えばジェンダーの問題です。ジェンダーの問題も若者の間で関心を集めています。
例えば、女性尊重の動きであるフヱミニズムの問題。日本では「Voice Up Japan」という団体、「Voice Up Japan」は大学に根差した活動を進めていまして、例えば「Voice Up Japan」明治大学支部であったり、「Voice Up Japan」国際基督教大学支部のような形で大学ごとに支部を作って活動しています。
イベント開催や勉強会の他にも、私の通っている明治学院大学では生理用品の無料配布などの活動もしています。また、能條桃子さんという方が中心となって、今度の4月の統一地方選挙で女性議員の割合をまずは3割にする、今後は将来的に半分にしていくという、候補者を応援しようという、投票に行こうというだけではなくて候補者の応援をしようというフェイズに行こうというプロジェクトをしている「FIFTYS PROJECT」、更には、「Girl Up Tokyo」や「学生団体iml」(イムアイ)というような、様々な団体が活動をしています。また、ジェンダーということで言うと、最近話題となっている性的マイノリティの権利拡大のための活動、もちろん当事者もやっているんですけれども、当事者に寄り添うという形でAlly (アライ)という、当事者ではないけれども一緒に活動しているという若者も多く参加しています。
〇入管問題
次に、入管問題。入管問題の難民支援の活動も若者の間で広がりを見せています。入管に収容されていたウィシュマ・サンダマリさんというスリランカ人の女性が死亡したという事件がありまして、それをきっかけにマスコミで大きく報道されまして、「BOND」(バンド)という団体、これは元々中国の残留孤児の支援をしていた団体なんですけれども、この「BOND」という団体が、これは珍しい例なんですが、大人たちの団体が学生をメンバーにすることで、今や学生団体のようになっているんですが、上智大学や獨協大学に支部を作って、入管に収容されている外国人の方との面会支援だったり、2月22日には上野で行われたデモでは、若年層・中間層・シニア、外国人、親子連れ、性的マイノリティなど、多様な人々がデモに参加していて、印象的だと思いました。
〇校則問題
最後に、学校の校則の問題についてご紹介します。ずっと50年以上前から、どういった権利で、どういった権限で学校側が生徒の見た目を縛るんだということが言われてきたんですけれども、今でも残念ながらそうした問題が続いています。
先日も、外国にルーツを持つ生徒が、卒業式で伝統的な髪形で参加しようとしたら、卒業式に参加させてもらえなかったというような事件もあって、新聞で大きく報道されていたんですけれども、ここでは紹介しきれないようなたくさんのひどい事例が全国であります。
最近は、いろいろな活動が功を奏して、文部科学省や地方自治体も校則の見直しを進めてきていて、そこは一つ進展はしているんですけれども、行政側の通達が届きにくいような私立学校では、未だに古い、有り得ないような指導が続いている、なかなかそれが表に出てこないとう現状があるのも事実です。
これらが今の若者が参加している運動の中でかなり盛り上がっているものですけれども、
ご紹介した4つ以外にも、例えば沖縄の問題に関心を持っている若者も多いですし、あとは軍拡反対だったり、原発の問題に関心を持っている若者も多くて、この前、渋谷で軍拡反対・平和を求める若者中心のデモが行われ、ものすごい数の若者が参加したと聞いています。
あと、私は民族派の方も取材しているんですけれども、民族派の方は若者が少ないという現状があるらしいんですけれども、それでも民族派のホープと言われるような若い人も何員かいるようで、憂国運動の大衆化ということを目指して日々活動をしていると聞いています。
●特徴
今、私が取材をして感じるのは、組織、団体というものがあまり重視されていない、もちろん重視されているところも多いですが、こういう新しい活動に関しては個人が尊重されているところが大きいと思います。
例えば「Fridays For Future」はメンバーを「オーガナイザー」と呼んでいまして、リーダーというような代表という役職も基本的に設けていません。ただ、このような組織体制、あえて悪い言い方をすると寄せ集め的になってしまうので、組織の中で考え方の対立が起きてしまったりとか、そのようなデメリットもあるんですけれども、基本的にはそれぞれが自由に活動することができているようです。
また、活動の発信はSNS、ツイッターであったりインスタグラク、ユーチューブであったりSNSを中心に活動の発信を行っています。ミーティングもZoomなどのオンラインビデオ通話サービスを用いることも多いので、こうしたことが、運動が東京だけでなく地方にも広がって、地方のメンバーが一気に一つのミ-ティングに参加できて、一緒のプロジェクトが出来るということが、SNSだったりZoomなどを使っていることが大きいのかなと思います。ただ、一方で紙に残らないので、「記録に残りにくい」というデメリットもあると思います。
私が今、河出書房新社という出版社で、こういう若者の社会運動を行っている当事者の大学生、高校生に書いてもらって、夏ごろに共著本という形で2020年代の若者がどのような活動をしているのかという本を出版させていただく予定です。
●呼称
呼称についてですが、よく社会運動家とか活動家と言いますけれど、最近では「アクティビスト」と横文字で呼ぶ傾向があると思います。これは「活動家」の和訳なんですけれど、「活動家」と聞くと、どうも物騒だという理由から「アクティビスト」という西洋的な雰囲気のある呼び方が好まれるのかと思います。ただ、「アクティビスト」と使っているのは、いわゆるZ世代と同じようにメディアがかなり使っているという節がありまして、「アクティビスト」になってしまう当事者たちはどのように感じているかと言うと、この呼び方にしっくり来ていない人も多いということで、何と名乗ればいいか分からないということで「アクティビスト」と迷いながらも名乗っている人、例えば「人権アクティビスト」だったり「気候アクティビスト」と名乗っている人もいれば、「アクティビスト」というのは嫌だから「活動家」でいいということで「気候活動家」と名乗っている人たちもいて、その辺はかなりバラバラかなという印象を受けます。
●『情況』の宣伝
最後に『情況』の宣伝をさせていただければと思います。私が編集部員として参加している変革のための総合誌『情況』が、昨年休刊したんですけれども、今年の2月に復刊しました。27歳の編集長塩野谷恭輔という東大で宗教学を研究されている方が代表取締役に就任して、編集部メンバーもシニアの方々が引退して、ほぼ20代、10代のメンバーで構成されています。なので、すごく歴史ある雑誌なんだけれども、中身はすごい20代みたいな変な感じになっているんですが、昔の学生運動の話題も取り込んで記録に残すという活動を進めつつも、その時代の社会運動に合わせた特集をどんどん組んでいきたいと思っておりますので、ぜひご購読よろしくお願いいたします。
若者たちの間でも、昔の学生運動に興味のある学生もかなり多いという印象もあります。そうした人たち、特に今の運動をしている人たちと話をしてみると、『情況』を読んでいるよと言ってくれる同世代の人たちも多くて、いろいろと興味のある人も多いという印象があります。
復刊号が宗教特集で、次号は動物特集を予定しています。
(終)
【お知らせ その1】
重信房子さんの新刊発売!
前半は66年から68年までの明大学費闘争を中心とした時期のこと(この部分は私のブログに「1960年代と私」というタイトルで掲載したものです)。
後半は69年から72年までの赤軍派の時期のことが書かれています。
【お知らせ その2】
「続・全共闘白書」サイトで読む「知られざる学園闘争」
●1968-69全国学園闘争アーカイブス
このページでは、当時の全国学園闘争に関するブログ記事を掲載しています。
大学だけでなく高校闘争の記事もありますのでご覧ください。
現在17大学9高校の記事を掲載しています。
http://zenkyoutou.com/yajiuma.html
●学園闘争 記録されるべき記憶/知られざる記録
このペ-ジでは、「続・全共闘白書」のアンケートに協力いただいた方などから寄せられた投稿や資料を掲載しています。
「知られざる闘争」の記録です。
現在12校の投稿と資料を掲載しています。
【お知らせ その3】
ブログは概ね2~3週間で更新しています。
次回は6月16日(金)に更新予定です。